[角谷浩一]どうする?! 圧倒的な景気回復の実現しか延命できないという命題が課せられた安倍首相
角谷浩一(政治ジャーナリスト・映画評論家)
官邸では15年10月の消費税率10%への再引き上げについて、厳しい綱引きが繰り広げられ始めた。先月16日、民主党の前首相・野田佳彦は会合であいさつし、二段階引き上げが法律で決まっている再引き上げについて「首相・安倍晋三はやらないのではないか」との見通しを示した。
確かに安倍は今回の値上げに対しても慎重姿勢を参院選挙前から貫き、内閣参与や党政策幹部に消費税値上げ延期論などの観測気球を上げていた。だが予定通りの値上げを望む財務省や副総理兼財務相・麻生太郎、前自民党総裁で元来の消費税増税派である法相・谷垣禎一らの強い説得などにあい、しぶしぶ値上げの決断をしたといっていい。
安倍はアベノミクスの成就には消費税増税による景気の後退やマインドの中折れ感に不安があったし、米経済や中国経済の不安定さは日本への負担になりかねず、その日本が上向きのところをつぶされてはたまらないという思いが強い。(経済官僚)
経済と税制は相反する価値の中にある。景気が悪いのに税金上げてどうするのかというマーケット論からの考えと、税制はマーケットに左右されるべきでないという規律論だ。現実の財政難と税収不足に安倍はゴーサインを出すことを覚悟したのだろう。だが、15年10月の10%への移行は来年の年末までに結論を出さなくてはいけない。来年4月以降の景気動向を見極めて数か月で判断しなくてはならない。
今の支持率の高さだと、安倍政権は長期政権だ。だが、そのためには3年後に衆参ダブル選挙を計画し、そこでも勝利して憲法改正に着手するのが安倍の政治日程だろう。その前には統一地方選挙もある。野党は一政権で2度消費税を値上げした首相と攻め立てるだろう。常識的にはその直後の選挙も厳しい。そこから野田の『再引き上げはやらない』が出てくる。(自民党幹部)
そうなれば安倍は増税だけやった首相として歴史に名を残すことになる。つまり安倍には圧倒的な景気回復を実現するしか延命できないという命題が課せられたのだ。財務省の反発をよそに自民党内では来年4月からの値上げと景気落ち込みを織り込んで、夏の回復傾向を見極めても秋から年末にかけての再値上げ発表は厳しいという見方が有力だ。
時期を示さず延期という方向での検討がされ始めているようだ。(自民党中堅議員)
昨年暮れの衆院選、今夏の参院選と経済一本で選挙を乗り越えてきた安倍政権はその経済でかじ取りが難しくなったといえそうだ。
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