.国際  投稿日:2016/1/12

阻止できぬ北朝鮮核開発 その2~米による北朝鮮攻撃を嫌がる中韓~

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文谷数重(軍事専門誌ライター)

■韓国は北への攻撃を望まない

だが、これらは物理的には可能だが、現実的に実施不能である。韓国と中国が反発するためだ。

まず、韓国は米国の空襲に同意しない。それは内戦を再開させるリスクを孕むものであり、同時に停戦ラインの向こうにいる無辜の韓国人を殺す行為でもあるためだ。小規模の空爆でも韓国は受け入れることはできない。これはすでに90年代にも言われていたことだ。

かつても精密誘導兵器による小規模な核施設攻撃の話があった。ちなみに精緻な外科手術になぞらえてサージカル・ストライクと呼ばれていた。

だが、当時でも「韓国の反発が大きく実施できない」とされていた。破れかぶれになった北朝鮮軍が空爆ですり潰される前に南進するリスクがある。民主化した韓国にとってそれは飲める話ではなかった。結局、米国は爆撃を実施できなかった。

今となっては完全に実現不能である。経済成長を達成し、社会的安定を確保した韓国が失うものはかつてよりも大きい。

そして、韓国の同意がなければ空爆は難しい。米韓は、北朝鮮も韓国の領土であるといった前提に一応は立つことになっている。

それ以上の規模の空爆は、韓国は飲めないどころかむしろ妨害をする。北朝鮮と韓国は同じ国である。停戦ラインは国境ではない。韓国や韓国人からすれば、その北側に住んでいるのも同じ韓国人である。その韓国人を、しかも無辜の国民を大規模に殺す空爆には賛同できるわけがない。

仮に米国が単独で飢餓状態を作りだそうとすれば、韓国は妨害する。対米協調を擲(なげう)ってでも食料や生活必需品の援助を始める。停戦ラインの向こうにいるのは親類縁者であり、放置はできない。空爆下でも食料輸送を行うだろう。

それ以上の攻撃となれば米国との敵対も厭わない。都市を丸焼けにするような無差別の戦略爆撃をしようとすれば、韓国は自国航空戦力で米軍と戦うことも辞さない。

韓国の反応や反発を考慮すれば、米国は北朝鮮空爆には踏み出せないのである。

 

■中国との関係を悪化させる

また、北朝鮮への空爆は米中関係の悪化ももたらす。米国にとっては最大の経済的パートナーである。その重要性を考慮すれば北朝鮮への空爆はできない。

もちろん、中国も北朝鮮の核開発には懸念を示している。北朝鮮の核兵器保有は中国にとっても百害あって一利なしなのだ。

だが、北朝鮮に米軍事力が入り込むことにもアレルギーがある。中国は自国近隣に敵対勢力が入り込むことに不安を抱く。すでにできている北朝鮮の核よりも、そこに米国が入り込むことに中国人は反発する。

中国人は影響圏を失う可能性に敏感に反応する。その国が自己のコントロール下にあるかどうかは全く問題ではない。敵性の外国勢力が自国に隣接することに恐怖感を抱くためである。

その好例がかつてのカンボジア問題である。かつて(あるいはいまも)カンボジアは中国圏であるが、そこに統一ベトナムが侵攻した際には中国は過敏に反応した。結果として中国はあまり意味のないベトナムの懲罰を行い、さらに統一ベトナムの支援者であるソ連との対立も激化させた。

東北部に多く居住する朝鮮族の反応もある。彼らは数は少ないが影響力は大きい。そして韓国人同様に北朝鮮への空爆を自分たちへの空爆と見做すだろう。中国政府は民族主義的な活動を嫌うため抑制するが、朝鮮族をなだめるための対応も考慮しなければならない。それは強硬的な対米態度となって現れる。

つまり、北朝鮮を空爆すれば中国の対米態度は一気に悪化する。その不利益は北朝鮮の核どころではない。米中対立が政治だけではなく、順調な経済面での協力体制にヒビをいれるものとなるためだ。

このため、米国は北朝鮮への空爆はできないのである。

 

■結局なにもできない

以上が、軍事力での核開発停止ができない理由である。米国は軍事力で核開発を断念させる力を持っている。だが、それは北朝鮮から内戦を再開する状況でなければできるものではない。この点で現状では実現不能な絵空事に留まる。

このため、核開発問題は六ヶ国協議といった外交的方策での解決が図られた。協議は巷間言われるほどの失敗ではない。少なくとも「核開発を断念させる」点で周辺国による封じ込め体制ができた。それはそれで成果である。

だが、外交手段による核放棄には失敗している。北朝鮮にとっては体制を維持する唯一の方策が核である以上、飲めない話である。

結果、現在に至るまで打つ手なしとなった。

できることは、経済封鎖を厳重にするか、あるいは逆に援助により体制の変化をもたらすことだけだ。

後者の援助も悪い話ではない。「甘やかすだけだ」と反対する意見も多いが、北朝鮮に資本主義の毒を送り込み、その人民に対し「金で心を汚してしまえ」とする工作とも言える。

 

中途半端な制裁は逆効果

もちろん封鎖も援助も迂遠である。いつ効果がでるといったものではない。この点で核開発に対して、なにもできない状態にあるということだ。

ただ、一ついえるのは経済封鎖なら封鎖、経済援助なら援助で徹底し、確固とした態度を取り続けなければならないということだ。

この点で、安倍政権の北朝鮮政策は失敗である。かつて対北強硬政策として2013年には独自の経済制裁を行った。だが、2014年に「拉致被害者の再調査」といった言葉ひとつを信用して制裁の解除を行い、騙されてそれっきりとなっている。

本来、信用できない相手に対してはステップ・バイ・ステップ、あるいはギブ・アンド・テイクの原則で対応しなければならない。

それを「心を入れ替えました」という言葉一つで制裁を解除し、相手に振り回されるようでは経済制裁の効果もなにもあったものではない。

このような運用では、いま検討されている日本による北朝鮮への経済制裁強化も効果は期待できない。再び騙され北朝鮮による外交的勝利の演出に使われてしまうのがオチだろう。

(この記事は、その1の続きです。全2回)[/extdelivery]

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この記事を書いた人
文谷数重軍事専門誌ライター

1973年埼玉県生まれ 1997年3月早大卒、海自一般幹部候補生として入隊。施設幹部として総監部、施設庁、統幕、C4SC等で周辺対策、NBC防護等に従事。2012年3月早大大学院修了(修士)、同4月退職。 現役当時から同人活動として海事系の評論を行う隅田金属を主催。退職後、軍事専門誌でライターとして活動。特に記事は新中国で評価され、TV等でも取り上げられているが、筆者に直接発注がないのが残念。

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