迷走朝日、奇妙な世論調査報道
古森義久(ジャーナリスト・国際教養大学 客員教授)
「古森義久の内外透視」
朝日新聞の3月15日付朝刊(国際版)をみていて、おやっと思った。一面に以下のような見出しがあったからだ。
≪首相「憲法改正、在任中に」発言 「評価する」38% 「しない」49%≫
一面のわりに小さな記事の見出しにしてはずいぶんと長く細かい。脇見出しに≪本社世論調査≫と書かれていた。私が奇妙に思ったのはこの見出しから判断する限り、朝日新聞は安倍晋三首相の憲法改正に関する発言だけに焦点をおいた世論調査をしたかにみえた点だった。
ところが記事をさらによく読み、4面の「本社世論調査 質問と回答」という関連記事を読んで、なあんだと思った。朝日新聞社が毎月のように実施している内閣支持や政党支持のふつうの世論調査結果なのである。この調査には質問が12あった。だが主体はあくまで時の政権と各政党への支持率の質問だった。
冒頭の質問は安倍内閣を支持するか否かで、「支持する」が44%、前回の2月中旬の調査よりも4ポイントも上がっていた。「支持しない」が35%で、前回の38%から3ポイントのダウンだった。安倍内閣への支持率が1ヶ月の間に4ポイントも上昇したのだ。
反安倍、反自民の朝日新聞にとっては明らかにあまり大きく伝えたくないニュースなのだろう。だからこの同じ世論調査についての一面記事の見出しはまったくそんな事実は反映していない。安倍政権にとってネガティブな結果を選別して取り出し、拡大しての報道なのだ。
第二の質問は政党支持についてだった。その結果は自民党支持が40%で、前月より6ポイント上昇、民主党は7%で逆に1ポイントの下降だった。第三の質問は今年夏の参議院選挙でどの政党、あるいは政党候補者に投票するか、だった。その結果はやはり自民党が圧倒的な首位で43%、前月より6ポイントのアップ、民主党は13%で、3ポイントのダウンである。なんといずれも安倍晋三氏の率いる自民党が隆盛を誇示した世論調査結果なのだ。
だがその結果を総括したはずの朝日新聞の記事は質問の中でも9番目の安倍首相の改憲発言だけにしぼって報じただけなのである。安倍政権への支持率上昇については記事の前文でほんの2行触れただけだった。だがニュース性からすれば、今年夏の参議院選挙でどの政党に票を投じるかという質問の回答は報道を優先されてしかるべきだろう。参院選の展望はいまの日本政治で当面、最大の関心事だからだ。
だがこの朝日新聞記事はその点もまったく無視、そのかわりに普天間問題、経済政策、子育て支援など、すべて安倍政権への批判がわりに多い項目だけを選んで、報道し、解説していた。要するに安倍政権のプラスの部分は徹底して過小評価、あるいは無視、マイナス部分だけを拡大、誇大に報じているのだ。
こんなみえみえの情報操作は読者の愚弄だろう。朝日新聞が日本の政治や世論からますます遠方へと迷走しているようにも思えてしまう。
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この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授
産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。