水泳界、発信力の秘密 北島選手引退
為末大(スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役)
北島選手が引退をして、たくさんの人が言葉を贈っているので、少し違う観点で話をしてみたい。
北島くんの引退で二つ気づいたことがある。一つは、同じ競技の選手からこれほどまでに温かいメッセージを送られる競技はあまりないということだ。もちろん北島くんの人柄があったのは大きい。ただそれだけではなくて、水泳界が苦しい時期にチームジャパンというコンセプトで個人競技の水泳をチーム競技として捉え全体で戦うという方向に舵を切ったのが成功しているように思える。
水泳は本当に選手同士が仲がいい。陸上では残念ながら同じ競技の選手が(どれだけ愛された選手であっても)これほど仲間からメッセージが集まることは少ない。
もう一つは、メディアの世界(SNAも含む)に元水泳選手の存在感がこれほど増えていたのかということだ。僕自身が、水泳選手のカラッとした性格が好きだから偏ってフォローしているからかもしれないが、スポーツ選手で発言をしている選手は水泳選手が多い。先の点とも繋がっているかもしれないが、水泳は個人競技ながら社交性が高い選手が多い印象がある。結果として、人脈ができ、発信力が高くなり、世の中にメッセージを伝えられるインフラが出来上がる。
上の二つを考えると
1.チームジャパンのコンセプトの元に選手同士が強い結びつきを持っている
2.アスリートの社交性が高くなり、各選手がメディアとしての強さを持っていて、メッセージを届けられるインフラが整っている。
3.お互いがフォローし合うことで、お互いを支えあう互助会的な機能を果たし、水泳のよいイメージを発信できる。
個人より組織のほうがどうしたって強くなる。水泳界のここ十数年の発展は素晴らしいが、表に出ている選手強化だけではなくこういった文化作りが多分に影響したのではないかと今回のことで強く感じさせられた。
という戯言はさておき、北島選手お疲れさまでした。少し休んで、次の勝負の舞台をゆっくり探してください。
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この記事を書いた人
為末大スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役
1978年5月3日、広島県生まれ。『侍ハードラー』の異名で知られ、未だに破られていない男子400mハードルの日本 記録保持者2005年ヘルシンキ世界選手権で初めて日本人が世界大会トラック種目 で2度メダルを獲得するという快挙を達成。オリンピックはシドニー、アテネ、北京の3 大会に出場。2010年、アスリートの社会的自立を支援する「一般社団法人アスリート・ソサエティ」 を設立。現在、代表理事を務めている。さらに、2011年、地元広島で自身のランニン グクラブ「CHASKI(チャスキ)」を立ち上げ、子どもたちに運動と学習能力をアップす る陸上教室も開催している。また、東日本大震災発生直後、自身の公式サイトを通じ て「TEAM JAPAN」を立ち上げ、競技の枠を超えた多くのアスリートに参加を呼びか けるなど、幅広く活動している。 今後は「スポーツを通じて社会に貢献したい」と次なる目標に向かってスタートを切る。