[安倍宏行]経済三団体・新年賀詞交換会でのスピーチに見る「別人のように生まれ変わった」安倍総理〜回復基調にある日本経済に浮かれず、先を見据えた行動を
Japan In-Depth編集長
安倍宏行(ジャーナリスト)
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高揚している。そんな表現がぴったりだったのが新年の安倍総理の挨拶だった。毎年恒例、経済三団体の新年賀詞交換会の場でのことである。
筆者は2002年から12年定点観測をしているが、今年ほど明るいムードが漂っている会は初めてだ。なにせ、この株高だ。去年一年で6割近く上昇したのだから経営者の頬も緩もうというものだ。それは何も証券会社だけに限ったことではない。小売りも製造業もサービス業も、まんべんなく景気回復の恩恵を被り始めたことが出席者の多さからも、個々の発言からも感じ取ることができた。
さて、話を安倍総理のスピーチに戻そう。もともと安倍晋三という人はスピーチがうまい人ではない。印象的で短いフレーズを多用し、人々に強烈な印象を与える小泉純一郎元総理と比較すると、むしろ真逆。一つのセンテンスは長めで、口調に抑揚はあまりなく、感情を表に出すタイプではない。
そして、スピーチ全体が長くなる傾向がある。いきおい、何を言いたいのか、焦点がボケることが過去多かった。いわゆる「見出しが取れない」タイプである。
2007年の安倍第1次内閣の時の新年の挨拶は15分以上あったかと記憶するが、全く印象に残っていない。
それが、だ。
今年は開口一番、
「私がまた総理になった時は、ノーアウト満塁のピッチャーの心境だったんです。思い切って球をど真ん中に投げるしかなかったんですね。」
と満面の笑顔で一気に観衆の笑いを誘ったのだ。その後、次々とアベノミクスの成果を披歴、2013年を「失われた自信を取り戻した年」と位置付けた。その上で、
「デフレから脱却するチャンスを逃すわけにはいかない。だから、経済対策を行い、好循環を実現させていく。」
と述べ、引き続き「経済」を最優先課題として取り組んでいく姿勢を強調した。
一方で、外交もしっかりとアピール。これまでこなした首脳会談は150回を数え、新年早々オマーン、コートジボワール、アフリカ諸国を訪問、15日に帰国し、21日から23日までダボス会議、国会の日程もこなしつつ、25日から28日はインドを訪問する、と過密な外交日程を公にすると、目の前にいる民主党の海江田万里代表に向かって、
「ここに海江田代表がいらっしゃいますが、このような過密スケジュールを勘案して質問してくださいね。」
とジョークを飛ばした。会場は爆笑の渦だったが、こんなことは初めてだ。それ以外にも、
「今年は午年。私は年男なんです。自民党の若手議員に、『総理、では今年は48歳になられるのですか?』と言われました。(笑)いやいや、私は60歳になるわけですけど、みなさん、こういう若い人は出世します!」
などとまた軽口を叩いた。いやはや、人はこうも変わるものか、と驚いたのは私だけではあるまい。
別人かのように生まれ変わった安倍総理。なんにせよ、国のリーダーが明るく、自信に満ちているのはいいことだ。実際に経済は回復基調にあるのだから、当然といえば当然だ。が、浮かれているわけにもいかない。私たちが忘れていることがある。
この流れを頓挫させないために、財政健全化の旗は降ろしてはならない、ということだ。それはすなわち、「社会保障を抜本的に見直す=改革する」ことでもある。消費税引き上げは、国民にとって痛みの伴う「改革」と表裏一体でなければならない。
「良薬口に苦し」
国民が痛みを嫌い、易きに流れれば、その先には「財政破綻」の4文字が待っていることを忘れてはなるまい。景気が良くなり始めた時こそ、浮かれず、先を見据えて行動しなければならないのだ。
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