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.国際  投稿日:2013/12/18

[藤田正美]EUやアメリカも凌駕する6億人の巨大市場“ASEAN(東南アジア諸国連合)”〜日本の将来の鍵はASEANが左右する


 

Japan In-Depth副編集長(国際・外交担当)

藤田正美(ジャーナリスト)

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これほど熱心にASEAN諸国を回った政権はあるまい。就任して1年、安倍首相はASEAN10カ国をすべて訪問した。首相だけではない。麻生副総理は、今年正月のお屠蘇気分もそこそこにミャンマーを訪問している。また12月には日本・ASEAN特別首脳会議が東京で開かれた。

今年は日本がASEANと正式な関係を結んでから40年という節目の年だが、それだけが理由ではない。中国の圧力に対抗するためには、日本とASEAN諸国との連携が不可欠であるという政治的背景、さらにASEANの潜在成長力が日本経済や企業にとって重要であるという経済的背景がある。

ASEAN諸国のうち、ベトナム、フィリピン、インドネシア、マレーシアなど南シナ海に面している国は、中国と緊張関係にある。中国が「死活的利益」として南シナ海の南沙諸島などで領有権を主張しているからだ。中国が主張する領土を基準にすると、南シナ海の北半分は中国の領海ということになる。

中国にとって南シナ海が重要になっているのは、エネルギーをはじめとする資源の輸入が増えているからだ。中国の長い歴史の中で、初めて海を使った交易が大きな比重を占めるようになったと言ってもいい。中国海軍が空母機動部隊を編成しようとしているのも、それが理由である。また米軍の空母機動部隊を意識して、弾道対艦ミサイルを開発したのも東シナ海や南シナ海で米軍に勝手な行動をさせないというのが理由である。

南シナ海が中国にとって死活的利益なら、日本にとっても死活的利益であるはずだ。実際、第二次大戦で日本が南方に侵攻したのは、まさにそこが死活的利益だったからである。しかし現在の日本は南シナ海を「軍事的」に支配することはできない。したがって中国に対抗するには軍事力のバランスを取るのではなく、多国間での協力関係をつくるしかない。日本政府がフィリピンに巡視艇を供与したのも、ベトナムと南シナ海情勢を協議するのもそういった伏線のもとで行われている。

ASEAN諸国との緊密な連携がなければ、日本は安定したシーレーンを確保することが、難しくなる可能性もある。アメリカとの連携も重要だが、南シナ海については何と言ってもASEAN諸国との関係が最重要だ。

経済的にASEANの重要性が高まっている。日本企業は中国にすでに2万社以上が進出しているが、ASEAN諸国には10カ国全部会わせても6000社程度だ。今週火曜日の日経新聞には「日本企業のM&A、東南アで最高に」という記事が出ていた。12月16日の時点で、日本企業がASEANで行ったM&Aは8163億円。昨年に比べると3.8倍を超えている。M&Aだけではもちろんない。直接投資も、JETROの調査では9月までで昨年1年間の投資額を上回った。

2015年、ASEANは共同体市場をつくることを目標としている。共同体ということになると、ASEANの中に工場をもつことが有利になるわけで、その意味でも日本企業の進出がさらに進むだろう。

それにASEANは全部合計すると6億人を超える大市場なのだ。中国やインドは別格としても6億人という数は、EUやアメリカよりも大きい。日本政府がこのASEANという地域でどう存在感を高めるか、企業がASEANにどう技術移転などをしながら信頼関係を築いていくか。それによって日本の将来像は大きく左右されるかもしれない。

 

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