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.社会  投稿日:2014/1/19

[為末大]ポジティブでいる事は、自分にポジティブを押し付ける事ではなく、「時々ネガティブになる自分」も受け止めて、いい事も悪い事もある人生の「いい事」の方を見つけていくことだ


為末大(スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役)

執筆記事プロフィールWebste

 

◆成功者の小学校時代の作文◆ 

サッカーの本田圭佑さんが、イタリア・ACミランに入ったというニュースを受けて、本田さんの小学生時代の作文をテレビやSNSで見る。確か以前、イチローさんの作文も世の中に広まった事があった。論調は一様に「やはり成功する人は最初からビジョンがしっかりしているな」というもの。

私の前職の経験から言えば、小学生時代に抜きん出ている子は似たような作文を残している。それでも、その中から成功する人とそうでない人が別れていく。個人的な感想では、あまり初期のビジョンの強さや明確さは、成功とは関係がないように思う。

また、逆に今となっては成功していても、子供の頃は全く明確なビジョンを持っていなかった人もいる。「気がついたらオリンピックに出ていた」「メダルを取っていた」というアスリートも少なくない。最初からコミットする人も入れば、徐々に加速する人もいる。

人は理由から成功を予測するのではなく、成功から理由を探すように思う。「あの人は成功している、だったら何か理由があるはずだ」「意志が強い、ビジョンがある、努力をした」。しかし、同じ性質を持って同じ事をしたアスリートでも成功しなかった人もいる。

成功者の成功メソッドは応用しにくい。成功法則は高いレベルに行けば行くほど、その人に特化したものになるからだ。特に目立つような成果を残す人は例外で、そのやり方は真似できない。時代のスターに憧れてつぶれた選手をたくさん見てきた。

ボルトの真似より、10秒0〜10秒2の選手が持っている要素を抽出した方が凡人には参考になる。天才として独自の道を行くのか、それとも凡人と割り切って統計から成功法則を見つけるのか。割り切りが大事だと思う。

 

◆ポジティブシンキングとブラック企業と体罰と日本陸軍◆

成功する為にはポジティブでいればいいというような「浅いポジティブシンキング」を観察すると、ブラック企業、体罰があるチーム、戦時中の日本陸軍に類似点があるように思う。それは“意志の力”、“気持ち”や”思い”の過大評価である。

“心を込めろ、気合い、自分で限界を決めるな、なせばなる、苦しさは人を成長させる、全ては気持ち次第”ーー。同じ言葉をアスリートが言えば賞賛され、ブラック企業が言うと問題になる。スポーツ界の根性論が根強いのは、現役時代はその考えで賞賛されて、それを教え子にも応用してしまうからだ。

オリンピックの前に弱音を吐きまくって、いざ勝負の時はすっきりして勝負強い選手もいる。強気な発言をする選手で勝負弱い選手もいる。欝になる人は言葉はポジティブである事は多い。本来の自己を否定してしまう考えは自分を追いつめる。

ブラック企業も、戦時中の根性論も、人々に望まれて生まれた側面があるように思う。スポーツなどを見ていると、リソース的に劣る側が、「意志の力」で不可能を可能にするというストーリーが私達は好きで、その発想は二つの例とあまり変わらない。

根性論は分析も予測も必要ない。できるかどうかは気持ち次第、できなかったら気持ちが足りなかったから。頭を使うのは指揮官、言われた事をやるのが兵隊。指揮官がいる時はいいけれど、自分の人生には指揮官がいない。

ポジティブに考えなければいけないと思えば思うほど、時々ネガティブに考える自分の否定につながる。言えば言うほど内側の自分が否定されて傷ついていき、臨界点を越えると心が壊れる。心を病む人は大体理想が高い人、自分の「アラ探し」が得意な人。

ポジティブでいる事は、自分にポジティブを押し付ける事ではなくて、「時々ネガティブになる自分」も含めて受け止めて、いい事も悪い事もある人生の、いい事の方を見つけていく作業なのだと私は思う。

 

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