[牛島信]株式会社はこの世でもっとも大切なもののために存在する〜それはお金ではなく、人が幸福になるため。
牛島信(弁護士)
こんなことを考えている。
株式会社というものは、この世でもっとも大切なもののために存在する。もちろん、それはお金ではない。この世でもっとも大切なものは、幸福である。株式会社は、人が幸福になるために存在している。その議論は、いささか風邪が吹けば桶屋が儲かるというのに似ている。いまそれを試みに描写してみれば、こんなことである。
株式会社があると、より多くの事業が可能になる。株式会社というものは、投資した以上の責任を負わないでよいからである。有限責任といわれている。より多くの事業が可能になれば、より多い雇用が生まれる。人にとって雇用は大事なものである。雇用されているというということは、働いて、その報酬としてお金を貰うことを意味している。
恵んでもらうのではない。自分の労働を会社に使ってもらい、その対価を得るということである。そこには、等価交換の取引があって、働く者は、社会で価値を認められていると実感することができる。社会に対峙しているといってよい。独立しているのである、自立しているのである。たとえ、もう少し多額の給料が欲しいにしても、である。
そうした自分の価値の実感は、独立し自立している自分を感じることができる状態は、自らへの誇りを生む。自尊心である。自分は、広い世間で、自分の持っているものを渡し、自分の必要とするものを、たとえ最低限であっても、得ることができている、誰にも頼っていない、という自覚である。
自尊心が、自らへの尊敬の念が、人の人生における一番確固とした幸福の基盤である。だから、株式会社は、この世でもっとも大切な、人の幸福のために存在しているのだ。蛇足を顧みずに言えば、だからコーポレート・ガバナンスは大事なのである。人が幸福に生きるために必要な株式会社、そのなかでも巨大な、つまりたくさんの雇用をかかえている上場株式会社を統治(ガバン)するものだからである。
雇用が大事なら、会社はクビを切ってはいけないことにすればいい? 雇用は不思議な生き物である。そんな会社は倒産してしまう。全員解雇になってしまうということだ。
国全体に拡げたら? ソ連という国が昔その実験をして失敗した。
株式会社の、経営がうまく行くとは限らないなかで頑張るという緊張感が、結局、世の中の雇用を維持するのである。或る会社が潰れても別の会社が興る。株式会社の元である資本主義のダイナミズムである。
【あわせて読みたい】
- 正義は理屈さえつければ、敵にも味方にもなるものだろうか?(牛島信・弁護士)
- 寺田倉庫3代目・寺田航平氏と「ファミリービジネスのあり方」(野田万起子・インクグロウ株式会社 代表取締役社長)
- ブックレビュー『未来の働き方を考えよう 人生は2回、生きられる』(安藤美冬・作家/起業家)
- 社会で『活躍する女性/期待される女性』に“母親”は入っているか?〜母親の社会復帰に制限をかける「抑止力」〜(江藤真規・サイタコーディネーション代表)
- 大きな組織を抜けて独立する中高年に期待!〜安倍宏行編集長のチャレンジと責務(辻野晃一郎・アレックス株式会社・代表取締役社長兼CEO/元・グーグル日本法人代表取締役社長)