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IT/メディア  投稿日:2016/6/13

裁判で否定された朝日新聞「人権委」


 

古森義久(ジャーナリスト・国際教養大学 客員教授)

「古森義久の内外透視」

 

朝日新聞には自紙の記事が他者の人権や信用を傷つけたかどうかを審査する第三者機関として「報道と人権委員会」が存在する。ところがこの委員会が下した判断が東京高裁の判決でまったく間違っていたと断じられてしまった。しょせんはこの委員会も朝日新聞のお手盛りだったということなのか。報道や新聞のあり方が改めて問われる。朝日新聞がいかにも公正や良識を示すかのように大々的に宣伝してきた「報道と人権委員会」の権威も地に落ちた感じである。

発端は朝日新聞が2012年3月15日の朝刊で大きく報じたプロ野球の巨人軍の契約金についての記事だった。この記事は「巨人軍は1997年から2004年にかけて、6人の選手と当時のプロ野球の申し合わせを計26億円分も超える合計36億円の契約金で不当に契約を結んでいた」と伝えていた。だから巨人軍に対して「『臭いものにはふた』続く不正」と厳しい非難を浴びせていた。

ところが巨人軍はこの朝日新聞報道が事実に反するとして抗議した。2012年4月のその抗議は「朝日新聞報道は『契約金』と日本野球連盟(NPB)が別個に認めていた出来高払いの『報酬加算金』とを間違って混同しており、不正確だ」という趣旨だった。朝日新聞側は十分な取材をせず、なお勘違いをもしたというわけだ。

巨人軍はこの抗議を当初、朝日新聞の第三者機関「報道と人権委員会」に提訴した。この委員会は朝日新聞により任命された憲法学者の長谷部恭男・早大教授や元最高裁判事の宮川光治弁護士ら3人で構成されている。

同委員会はこの巨人軍の抗議に対して2012年7月、「朝日新聞の当該記事はすべて真実」と断じる見解を発表した。その結果、巨人軍はこの「見解」に納得せず、裁判所へ提訴したわけだ。

巨人軍の提訴に対してこの6月9日、東京高等裁判所が出した判決は「朝日新聞はNPBに取材もせず、真実ではない報道をした」として名誉毀損の成立を認め、朝日新聞に巨人軍への賠償金など合計330万円の支払いを求めていた。同判決はまた朝日新聞の記事が巨人軍の名誉を毀損したと断じ、「報道と人権委員会」の「見解」とは正反対の判断をみせて、同委員会の判断を完全に否定した。同人権委は巨人軍の抗議に対して、独自の調査はほとんどしていなかったことが判明している。

朝日新聞側は今回の判決に対し、なお上告の姿勢をみせてはいるが、新聞社独自の「第三者機関」の判断が裁判所からは完全に否定されるという展開はこの種の第三者機関なる存在の独自の判断能力や客観的な事実調査の能力への疑問を改めて提起する結果となった。


この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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