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.国際  投稿日:2016/6/16

国としての主張がない 日本の対米発信の実態その2


古森義久(ジャーナリスト・国際教養大学 客員教授)

「古森義久の内外透視」

ロサンゼルスとニューヨークにはそれぞれ「日本情報文化センター」という機関が存在する。ともに日本の独立行政法人の「国際交流基金」が運営する対米発信拠点である。同基金は外務省の事実上の管轄下にあり、対外的な文化芸術交流や日本語教育の普及を任務とする。 

だがそのほかに「日本研究・知的交流」という目的もあり、「日本と海外の人々の間で対話する機会を作ることで、日本の対外発信を強化する」とうたわれている。単に狭い意味の文化にこだわらず、政治や外交も含めての日本からの広範な発信もする、ということだ。

だがアメリカでは「ロサンゼルス日本情報文化センター」の活動をみると、あまりにも軽い。日本語普及の「みんなでしゃべろう!」というプログラムはまだしも、「かわいいお弁当の作り方」「おにぎりで世界を変えよう」「折り鶴の見本」というような通俗な「発信」ばかりである。その他はお決まりの映画とアニメの連続となっている。

これでは「文化」の名にも値しない。ほんの少しでも日米間の「知的交流」を思わせる対米発信があってよいと思うのだが、まったくみあたらない。日本にとってのいま懸案の外交課題や日本が国として対外的に知らせたいテーマにわずかでもかかわるような行事はゼロなのだ。

だからこそ政治の首都のワシントンにある前述のJICCが日本の国家としての主張や情報をアメリカに向けて少しは発信すべきなのだが、それもまたないのである。

では同じワシントンでの韓国の対米発信活動の状況を報告しよう。韓国を日本との比較の対象にあげるのは、両国がともにアメリカの同盟国である一方、たがいに利害の衝突があるからである。周知のように韓国は日本の領土の竹島を不当に軍事占拠している。まず領有権での衝突があるわけだ。また慰安婦問題をはじめとする歴史認識でも日韓両国は衝突してきた。

こうした衝突部分の状況は超大国のアメリカの対応に大きく影響される。アメリカが日韓両国それぞれの主張や態度をどうみるかが常に重要となってくるわけだ。アメリカの理解や賛同を取りつけた方が有利になる。だからそのアメリカに向かってどんな発信をするかは日韓両国にとっていつも重要なのである。

この点での日韓両国の対米活動は一種のゼロサム・ゲームだともいえよう。相手が得点をあげれば、それだけこちらの失点になるような相関関係があるわけだ。だからこそ韓国の対米発信の実態を知ることには二重三重の意義がある。

韓国政府の対アメリカ発信の主役は「アメリカ韓国経済研究所(米韓経済研究所)(KEI)」である。韓国は官民全体としてもアメリカへの広報や宣伝は日本のそれよりもずっと積極的で大規模だといえる。実際の対米発信の作業はあくまで韓国の政府が主体となり、ワシントンの在米韓国大使館や民間団体をも使う。だがその具体的な広報や情報の活動となると、中心になって動くのがこのKEIなのである。

ただし韓国には対米発信では日本にない大きな武器がある。それは合計170万人とされる在米韓国人、韓国系アメリカ人の存在である。韓国系米人は国籍はアメリカだから韓国政府の指示で必ずしも動くとは限らない。だがそれでもなお韓国を祖国とみなし、その利益のためには協力し、献身するという人たちも多い。韓国政府はアメリカの政府や議会への働きかけでは、この韓国系アメリカ人の存在に依存できる場合が多いのである。

だが対照的に日本は対米発信で日系アメリカ人に依存することはできない。日系米人には日米戦争のせいもあって、日本のために動くという意識がまずないからだ。

その3に続く。その1。全5回。毎日18時配信予定)


この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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