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.国際  投稿日:2014/1/29

[藤田正美]日本経済は自律的な成長力を取り戻すことができるか?〜11兆円という巨額の貿易赤字が金融緩和にとっては大問題


 

Japan In-Depth副編集長(国際・外交担当)

藤田正美(ジャーナリスト)

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今の世界経済は、言ってみれば人類が経験したことのない「海図なき航海」である。価値の裏付けがない通貨が、市中に溢れている。それでハイパーインフレになるかというと、そういう徴候は今のところ見えない。それどころか、日本はデフレからなかなか脱却できないし、ヨーロッパはデフレに陥るリスクがあると警告されている。

そして中央銀行は、量的緩和というこれまたかつて経験したことのない超金融緩和を長期にわたって実行している。ようやくアメリカが一足早く超緩和を縮小しようとしているが、その過程がいろいろな副作用をもたらすことも分かってきた。新興国市場に流れていた資金が逆流して、インドやインドネシアの通貨が値下がりした。アルゼンチンの通貨も大きく下げて、場合によっては1997年のアジア通貨危機のようなことが起こる可能性もある。

本来、中央銀行の政策手段は金利だ。景気が過熱したら金利を上げて景気を冷やし、失速気味になれば金利を下げて企業の投資や個人の消費を促す。ところがこの金利の上げ下げだけでは景気をコントロールできなくなって(つまり金利を事実上ゼロにしても企業の投資マインドは回復せず、消費も上向かない)、やむを得ず市中に直接お金を流し込む「量的緩和」を行った。

量的緩和の手段は市中から国債を日銀が買い入れることである。この結果、国債の相場は安定的に高値圏を維持し、結果的に国は国債を「安い金利」で発行することができる。つまり借金に歯止めが効かなくなった。日本の政府の借金残高は1000兆円を超え、世界の先進国最悪の水準だが、それでも国債を低金利で発行できるのは、日銀がせっせと買い入れているからだ。

問題は、ここからどうするのか、ということである。いわゆるリフレ派の人々は、金融緩和をこのまま続けて、もしインフレ率が上昇するような徴候が見えたら、引き締め(緩和の縮小)に転じればよい、と楽観的だ。しかし本当にそうなのだろうか。これだけ日銀が市中に現金を投入すれば、たしかに株式や債券などは値上がりするだろう。すでに株価は昨年から6割も上昇した。しかしそれが実体経済を刺激するところまではいかない。

日本経済が自律的な成長力を取り戻すことができるのかどうか、問題はこの一点にかかってくる。しかし日本経済は、需要の伸び悩みという慢性病を抱えている。人口が増えないために、人口のボーナスがない。人口が増える社会は、自動的に需要が増える。しかし今は逆だ。ということは、外資系企業はもちろん日本企業も、国内投資には二の足を踏むということである。

輸出で黒字を稼いで、海外から原料やエネルギーを買っていた日本が、3年続けて貿易赤字になったのは、原発停止に伴う天然ガスの輸入増加によるものであると同時に、日本の輸出が増えなくなっているためだ。輸出が増えないのは企業が海外に工場進出していることが大きな理由である。

実はこの貿易赤字が巨額(2013年で11兆円)になっていることが、日本の金融緩和にとっては大問題になるかもしれない。これまで日本はいくら国債を発行しても、「ほとんどは日本人が保有していて、売り浴びせられることはない」とされてきた。しかしもし貿易赤字が巨額になって、経常収支まで赤字になるようなことになれば、もはや日本政府の赤字を国内だけでは埋められない。そうなったら、日本国債が売りに出されて暴落する(長期金利が暴騰する)リスクも出てくるのである。

黒田日銀総裁の発言はダボスでも海外メディアによって大きく取り上げられたが、強気でいられる時間が限られてきたと言えるのかもしれない。

 

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