[朴斗鎮]12月8日、金正恩の後見役・張成沢(国防委員会副委員長)の逮捕!〜吹き荒れる「粛正」の嵐で揺れる北朝鮮。どうなる?!金正恩政権。
北朝鮮の金正恩第一書記の義理の叔父であり後見人といわれていた張成沢(チャン・ソンテク)国防委員会副委員長が12月8日粛清された。8日に開かれた朝鮮労働党政治局拡大会議で「反党反革命分派分子」という最も重い罪名で党籍を剥奪され逮捕された。
張氏の具体的罪状は、
- 反党分派行為
- 金第一書記への不服従
- 経済事業に与えた打撃
- 外貨の無駄遣いや賭博、女性関係をはじめとした不正・腐敗
などだ。
今後、張成沢の処遇が処刑にまで進むか否かが注目される。また妻の金慶喜書記の動向も大いに気になる。また処罰の対象を個人ではなく「張成沢一派」としていることから、今後「反党分子」摘発の嵐が吹き荒れるだろう。1997年に黄長燁元書記が韓国に亡命したときには約2000名が粛清された。彼よりもはるかに大物で幅広い人脈を誇っている張成沢である。粛清の数ははるかに多くなることが予測される。これまで最大の粛清事件は「深化組事件」(1997年)であるが、この時幹部2万5千人が処刑または追放された。
張成沢は、金正恩政権下では自身が金正日時代の金英柱(金正日の叔父)のポジションにあることから、自身への粛清可能性については最大の警戒心を持って対応していた。それゆえ自身の部下たちには「絶対に張成沢万歳を叫ぶな。叫ぶやつは追放する。いついかなる時でも金正恩万歳だけを叫べ」と強調していたほどである。
金正恩と張成沢の亀裂は、今年に入って顕在化したようだ。それは昨年末のロケット(長距離ミサイル)発射の成功と今年に入っての第3回核実験成功で気分を高揚させた金正恩が、金正日の戦争挑発をはるかに超える「核先制攻撃」を叫び始めた時からだと推測される。これで北朝鮮と中国との関係は急激に冷え込み、国際的孤立も深まった。罪状の「最高司令官・金第一書記への不服従」は、この時に張成沢が「意見」を述べたことを指すものと思われる。
張成沢が「反党分派分子」にされたことで、今後、北朝鮮では粛清の嵐が吹き荒れるだろう。そして金正恩政権の行方に深刻な影響を及ぼすに違いない。この収拾策を誤れば金正恩政権の流動化は避けられないと思われる。
【あわせて読みたい】
- 未熟で知名度の低い金正恩の宣伝に日本のテレビメディアを利用する北朝鮮〜北朝鮮の対日メディア工作に応じてしまう日本の一部テレビの不可解(朴斗鎮・コリア国際研究所所長)
- 外貨獲得を狙う北朝鮮の『経済管理改革施行』と『地方特区指定』〜地方の貧弱な経済力までも外貨獲得に動員する試みに展望はあるか?(朴斗鎮・コリア国際研究所長)
- 中国軍の実力を分析する〜資料から見る戦力(島津衛・防衛大学校卒、現役自衛官)
- 中国の武力的「冒険主義」を思いとどまらせるのは「外交」しかない〜12月ASEANの首脳会談でのアジェンダ(藤田正美・ジャーナリスト/元ニューズウィーク日本版編集長)
- 米国の「弱さ」を突いた中国の防空識別圏〜尖閣諸島の領空をも含んだ「挑発」(藤田正美・ジャーナリスト/元ニューズウィーク日本版編集長)
【プロフィール】
1941年大阪市生まれ。1966年朝鮮大学校政治経済学部卒業。朝鮮問題研究所所員を経て1968年より1975年まで朝鮮大学校政治経済学部教員。その後(株)ソフトバンクを経て、経営コンサルタントとなり、2006年から現職。デイリーNK顧問。朝鮮半島問題、在日朝鮮人問題を研究。テレビ、新聞、雑誌で言論活動。主な著書に、「北朝鮮 その世襲的個人崇拝思想−キム・イルソンチュチェ思想の歴史と真実」「朝鮮総連 その虚像と実像」など。その他論考多数。