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.経済  投稿日:2016/10/29

『日本解凍法案大綱――同族会社の少数株、買います!』1章 同族・非上場会社の少数株 その2

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牛島信(弁護士)

「当たり前だ。税金だからな。国民の義務だ。
その男はなにをしたってわけでもない。金を儲けて誤魔化したっていうのでもない。
ただ、おばあさんの財産を相続した。わずかな株さ。大日本除虫菊の株の200分の1分だ」
 
「そんなのゼロと同じだ」
 
「常識ある大人はそう考える。
しかし、税務署の目からはそいつがとんでもなく高い価値を持つものに見えたってことだ。
なに、相続した株の評価にはいくつも方法があって、そのうちの高い方法を当てはめたってだけのことなんだがな。
自分では500万足らずの評価のつもりが、税務署が1億6000万だと決めつけてきた。34倍だ。
上場なんてしてる会社の株じゃない。だからマーケットの値段なんてない。そもそも上場していないから、非上場株という。ほとんどの会社は上場していない。
非上場会社の株なんて、経営に関係のない人間にはほとんど何の意味もない。会社によっては配当をくれるところもある。そのときには、配当が手に入る。それだけだ。
会社の経営に関与するには過半数の株をもっていなきゃダメだ。
だから、少数派のもっている株なんて、配当還元といって配当が年にいくら入るかで値段が決まるのがふつうだ。相続税となると、配当の10倍が価値ってことになる。10年分の配当の合計額ってことだな。低金利の時代だから悪くないとも言える。しかし、誰もそんな株なんか買ってくれないからな。だから、そんな株を相続したって僅かな価値しかないと税務署も思ってくれる。
年に2割配当をしていたって、配当の20倍でしかないってことだからな」
 
「そうだろうな。上場してない会社の株の心配なんて、金持ちオーナーだけの悩みだと思っていたよ」
 
高野はわけがわからない。大木はもう一度椅子の上で腰を動かすと話を続けた。
 
「ところが、この男は不運だったんだ。うん、そうとしか言いようがない。
税務署からみると、経営者と仲間だと見えてしまったんだ。つまり同族だ。だから、経営者と同じように、資産や利益を加味した物差しであなたの株を評価にします、とこうきた。
同族会社ではたくさん儲けていても配当をしなかったり、してもわずかだったりするところがいくらもある。資産がたっぷりあっても、経営者は株主なんかには知らん顔だ。会社イコール自分個人だからな。
会社の資産てのは事業のためにあるんだから、経営者から見れば当然のことだ。株主なんて目に入らない。
そのくせ、会社の事業には必要でない資産で、実際は個人が使っている不動産まで会社名義にしてしまっているってところ、多いじゃないか。社宅、それも社長用社宅ってことこしておく。オマエなら、オーナー社長にしてみればどちらでも同じことだってのはわかるだろう。自分個人のポケットに入れておくか、それとも会社のポケットにするか。税金からいえば、会社がいい。社長の意のままだな。
配当だって同じだ。
会社がいくら儲かったって、配当に回すのはバカらしいとたいていのオーナー経営者は考える。自分に配当するだけならいいが、ふつうは他にも株主がいる。配当となると株の数に比例して分けてやらなくっちゃいけない。配当っていうのは株式数に応じて払うんだから、そうならざるを得ない。
となると、会社が儲けた金を社長個人のポケットに入れるのなら、社長への給与だ。そういう形で自分に払うことにしておけば、他の株主には払わないで済む。自分が51%の株を持っている社長なら、配当にするのと自分への給料にするのとでは2倍の違いがある。
だから、配当を熱心に払う社長ってのはいない。
そんなこんなで、ふつう税務署はオーナー経営者の持ってる株は高い価値、少数株主の株は安いもの、と決めてかかっている。
それはいい。それはそのとおりだからな、実際。ところが、経営者と同族ってだけでなんの旨みもない立場だってことになるとヤッカイだ」
 
「同族?旨み?」
 
高野は大木の話が気になってならなくなってきた様子だった。相談に来た非上場会社の株のことはさておき、高野自身、自分の会社をいくいつももっているのだ。もちろん上場なんてしていない。株は知り合いに持ってもらっている会社もある。だから大木の言っていることが他人事ではないのだ。
 
「ああ、同族ってのは親戚のことだ。6親等内の血族か3親等内の姻族、と税務署の書いた規則に書いてある。そこに当たれば、経営者の一味ってことになる。血がつながっているっていうだけでそうなる」
 
「血?血族ときたか。古いな」
 
「どうかな。血は水よりも濃いものだ。日本の税務署が血が大事と言っているだけじゃない。実際、当たってる。そのとおりに人間てやつは動いている。
そうだろう?世の中では、ただで他人に金をやるってのは珍しい。あってもケチる。ところが親子となれば金をやるのは当たり前だ。小さな子どもも自分の孫なら当然のように気前よく金をくれてやるおじいちゃん、おばあちゃんが全国にあふれている。もちろん、赤の他人の子には知らん顔のままだ」
 
「余計なお世話だ」
 
「そのとおり。健全な社会だよ。子は大事、孫はかわいい。ほら、血だろう?
だが、税務署というのはなんともおせっかいなところでな。個人が好きでやったことでも放っておいてくれない。ま、税務署にすれば、国民のため、公平な税負担のためって大義名分がある。それはそれで大いに正しい」
 
「それはそうだけど。だけどオマエなあ」
 
「オマエにしたって、財産を個人名義にしているわけじゃあるまい。たとえば碑文谷にある自宅はどうだ?」
 
「ああ、会社名義だ。ささやかな会社だ。オヤジが母親に買ってくれた。それを俺が会社組織にして、母親の株を少しずつ買ってやっている。小遣いの代わりだ。女房、それに子どもだけしか株主なんてのはいない。ま、つまりはぜんぶ俺のものってことだ。自宅も会社名義にしてあって、税理士が社宅ってことにして申告してくれている」
 
「みんな初めはそうなんだ。だが、そのうち株が分散してしまう。子どもがいれば孫ができる。全員が経営をするわけじゃない。ほんの一部だけが経営をやる。
財産分けのときに、会社名義の財産ばかりだと、経営を引き継がない子どもには分けてやるものがない。だから株を少しだけでも、ということになってしまう。それっぽっちでは、分けてもらった本人も関心がない。
だが、税務署は違う」
 
「いったい税務署はなにを狙ってるんだ?」
 
「会社を支配している奴の株には会社全体の価値が載ってるってことさ。
 会社ってものは不思議なもので、社長が支配権を持つためには51%の株あれば足りる。それ以上は要らない。」
 
その3に続く。その1もあわせてお読み下さい。毎週土曜日11:00に掲載予定)
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この記事を書いた人
牛島信弁護士

1949年:宮崎県生まれ1975年:東京大学法学部卒業1977~1979年:検事(東京地方検察庁他)1979~1985年:弁護士(都内渉外法律事務所にて外資関係を中心とするビジネス・ロー業務に従事。)1985年~:牛島法律事務所開設2002年9月:牛島総合法律事務所に名称変更(現在、同事務所代表弁護士、弁護士・外国弁護士51名(内3名が外国弁護士)<専門分野>企業合併・買収、一般企業法務、会社・代表訴訟、ガバナンス(企業統治)、コンプライアンス、保険、知的財産関係等。

牛島総合法律事務所「少数株主対策チーム」 URL: http://unlistedstock.jp/

 

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牛島信

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