無料会員募集中
.国際  投稿日:2016/11/11

日本はミサイル防衛強化必至


大野元裕(参議院議員)

執筆記事

1対露関係
トランプ大統領予定者はプーチン大統領の手腕を高く評価し、昨年には中国に代わり米国にとって最大の脅威として再び取り上げられたロシアに近づいていく姿勢を見せてきた。ウクライナやアレッポを含むシリア情勢についてもロシアとの協力をほのめかしている。それでは果たして、米露接近は、国際情勢を安定的に推移させるのであろうか。
 
ロシアにとってみれば、ウクライナ情勢をリセットするチャンスにとどまらないかもしれない。トランプ氏のNATOへのコミットや東アジアにおける安全保障への関与を疑問視する姿勢からみれば、これまでも権力の空白を突いてきたロシアにとっては、戦略上の選択肢が拡大したと好機と考えるかもしれない。ロシアが勢力圏にあるべきと考える東欧に対し、欧州諸国は十分な抑止を形成できるであろうか。また、ロシア東岸や北方領土を足がかりとする東アジアについて、ロシアは静観を続けることになるのであろうか。
 
2東アジア情勢
中国及びロシアは、東アジアにおいてサラミのスライスを削るように、少しずつ伸張していく戦術をとってきた。トランプが主張する日米同盟の見直し議論に到らずとも、日本の防空圏や領海、さらには尖閣海域等について、米軍の意思を試す行為が繰り返されるとしても全く不思議ではない。米軍の核の傘の実効性が見えなくなれば、北朝鮮がよりドラスティックな行動をとる可能性も否定できない。
 
すでに我が国は米国に対して十分な思いやり予算を組み、特に在沖海兵隊については、海外における活動を前提とする場合、米本国に展開させるよりも安上がりな部隊になっており、トランプ大統領予定者の主張は妥当なものではない。しかしながら、トランプ氏は前方照射のための米軍を対象としてただ乗り論を展開しているのではなく、日米同盟の見直しすら示唆し、日本に対する安全保障のあり方に疑義を呈している。
 
日本の安全に直結する法制ではなく、米軍の下請けを旨とする安保法制を無理矢理通した安倍総理であるから、米国に対する更なる譲歩の方法を考えるのかもしれないが、NATOをはじめとする他の米国との同盟国の出方や我が国自体の安全保障のあり方についての議論が不可避となるばかりか、それだけでは回答できない多くの疑問が残ることになる。
 
米国を頼れないのであれば、ロシアや中国に接近する国々が出てくる可能性がある。韓国、東南アジア諸国及び東欧諸国はその候補となろう。特に中国の場合、将来においても中国をリージョナル・パワーにとどめておく戦略は崩壊し、南シナ海及び台湾はおろか、太平洋を中国と米国で分かち合うような考え方が現実味を帯びる。
 
3中東情勢
シリアにおけるロシアとの協力示唆は、アサド政権容認を意味するかもしれない。また、イラク及びアフガニスタンへのコミットメントの低下は、両国におけるテロの巣を再興させる可能性がある。これらの政策は、サウジアラビア等の湾岸諸国にとって容認できるものではなく、アラブの春以降の混乱の再現の可能性が出てくる。さらには、対イラン敵視の姿勢は、湾岸産油国とイランの結びつきを強め、イスラエルを追い込むのみならず、中露の武器の中東における拡散を招く可能性がある。
 
また、ムスリムの米国からの追放もしくは入国阻止は、欧州及び西アジアにおけるテロ組織のセルを活性化させ、非対称的脅威が地域的にも能力的にも、より対応困難な脅威となる可能性がある。
 
4日本
アジア諸国が中国になびき、ロシアが冒険主義的な動きを見せ、北朝鮮がドラスティックな行動に出る場合に我が国は、南シナ海で発生したことが東シナ海で再現される蓋然性に対応し、北朝鮮の核とミサイルの脅威に対応し、北部及び日本海側での自前の哨戒・防空能力を試されることになる。
 
必然的に、島嶼防衛能力の向上、空海の哨戒能力強化及びミサイル防衛が喫緊の課題となるであろう。これらの能力強化の前提は、米国との協力である。島嶼防衛及び一次奪還能力が整備されたとしても、日本の施政権が及ぶ地域に対する米軍のコミット無しには、島嶼部を継続的に防衛することはできない。
 
尖閣近辺に中国が研究を進める可動型沖ドック基地が設置されても対応のすべはない。6月22日にロフテッド軌道で発射したムスダンに核弾頭を積むことができれば、我が国としてこのミサイルを打ち落とすすべはなく、迅速なブロックⅡAの配備が必要になると共に、イージス・アショア(注1)を検討すべきながら、米国はこれに対していかなる反応を示すのであろうか。さらに、抑止力が破られたと中露が判断する場合、我が国はいかなる方向に舵を切ることを求められるのであろうか。
 
(注1) イージスアショア(Aegis Ashore)
陸上配備型BMD(Ballistic Missile Defense:弾道ミサイル防衛システム)の呼称。

copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."