[大平雅美]「真っ赤な口紅」が売れている〜売れ筋商品が低価格帯から高級品にシフト。「赤」人気は脱デフレ・景気回復の証?この景気は本物か?!
大平雅美(アナウンサー/大正大学客員准教授)
資生堂会長兼社長の前田新造氏は、最近の消費者の好みの変化について
「真っ赤な口紅が売れるようになった。…漆のような鮮やかな赤の商品が動き出した。1980年代後半のバブル時代にも同じような傾向があった」(‘14.1.27日経新聞朝刊:月曜経済観測)
…と話している。
この記事を読んで私も実感するところがあった。時代は、「赤」人気、「赤」再びの復活!とでも言ったところか。資生堂のキャンペーンコピーをひも解いてみると、バブルまっただ中の1988年春は、今井美樹を起用し“ほら、似合うライブリップの赤、ほら、水が生きているライブリップのうるおい”。バブル前1984年春は“くちびるヌード”、1985年は“ベジタブルスティック”、バブルの終わりが見えた1991年春は、“くちびる、さんごピンク”、1992年には“紫だちたる、モーブのくちづけ”。因みに「モーブ」とは青みのある紫色のことで、この微妙な色から時代の不安定さを感じ取ることができる。
さて女性の消費を探るわかりやすい商品、化粧品。前田氏によると、
「最近はやり出した赤は気分が乗っていて、自己主張が強くなっているときでないと使いにくい色だ。景気が回復しつつある証しと言えるだろう」
…と語っている。
ところで、「丹花の唇」といえば、“赤い花のように美しい美人のくちびる”のことを言うが、「赤」には見るものを引き付ける魅力がある。創業文政8年、江戸時代から紅を販売する伊勢半本店(東京港区・キスミーを販売する会社)の資料では、「江戸時代は、化粧に用いられた色は赤(紅)・白(白粉)・黒(眉墨・お歯黒)の三色のみ」とある。唯一有彩色の紅は、女性の顔に彩りを与え、引き立たせるキャチーな色だった訳である。特に富裕層の女性にもてはやされたのが、絶世の美女・小野小町にあやかって売り出された「小町紅」。
(左)猪口等の内側に紅を刷る(中央)自然乾燥で玉虫色に「小町紅」(右)筆に水を含ませれば紅色に)
江戸後期には、この高価な紅を下唇に何層にも塗り重ね、緑色(笹色)にする「笹紅」という化粧法がお金持ちの間に流行した。しかし庶民には買えない。なんとか真似したいと思った庶民たちはどうしたか。安い紅を買い、まず下唇に墨をのせ、その上から紅を重ねたらしい。すると墨特有の黒光りで“玉虫色に近い輝き”が作り出せたそうである。いわゆる“偽笹紅”であるが、流行に乗じたい庶民心理はこうしたささやかなところにも表れる。
アベノミクスが始動して1年、様々な業界を見れば売れ筋商品は低価格帯から高級品にシフトし、デフレを脱却しつつあるように見える。果たしてこれは本物の「赤」か。
色は実際に見えている1色だけでない。幾層にも重なった美しい玉虫色の匠の赤もあれば、下地に黒を使った偽物の赤もある。「赤」に象徴される脱デフレ感。紅は紅花からわずか1%しか採れない。「上場企業の7割 増収増益」(’14.2.1日経新聞朝刊)の記事が躍る今期、庶民に見えている“赤い輝き”は、どれくらい本物だろう。
※画像提供:伊勢半本店 紅ミュージアム©Ryoichi Toyama
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