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.社会  投稿日:2014/2/3

[渋谷真紀子]アメリカにいる教員免許をもった「演劇の先生=ドラマティーチャー」〜「点数」がつかない科目で子供たちは自分に役割があることを理解する。


渋谷真紀子(ボストン大学院・演劇教育専攻)

執筆記事プロフィール

 

アメリカには「演劇の先生」という職業があることをご存知ですか? 演劇が盛んな州に限られますが、学習指導要綱もあり、教職免許を持った「演劇の先生」が存在します。私が通うエマーソン大学は、全米で2つしかない演劇教育に特化した大学院の為、ドラマティーチャーとなります。

同級生の多くは学生時代に、ドラマティーチャーに人生を救われた経験があるといいます。自分に自信が持てなかった高校時代、ステレオタイプを演じて、いじめられないようCoolを演じる・・。そんな陰鬱な日々を救ってくれたのが演劇の先生だと。

また、先日、大学が主催したEmerson High school Drama Festivalでは、受験、両親の離婚、薬物乱用、同性愛、サイバー社会で彷徨う現実と架空の人間関係等々、アメリカの高校生が抱える様々な悩みが描かれる舞台を上演していました。そこで、拍手喝采を受けた男の子が、実は、過去に非行を繰り返し自殺未遂をしていたことを聞かされた時は本当に驚きました。つまり、その子は演劇によって居場所を与えられたのです。

私の同級生は、「ドラマティーチャーはスーパーヒーローになれる!」と言います。それは演劇の先生の役割が、一人一人の特性を見出し、それぞれが自信を持って自分らしく輝かせることだからではないでしょうか。演劇は、他の教科と異なり「点数」がつきません。「主役」が評価されるわけでもありません。

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 (恩師と。公演後、自分らしく輝けた瞬間)

 

指導要綱には、脚本分析・背景やキャラクター理解・自分らしい表現の探求・総合芸術としての理解(脚本・演出・演技・舞台美術・音響・衣装・照明等多面的な理解)・アートがコミュニティに与える影響力の探求等、幅広い範囲が網羅されています。演劇というツールを通じて、学生たちはそれぞれの持ち場で役割があることを理解し、自分なりに個性や能力を伸ばせる場所が与えられます。それを導いてあげるのが、まさにドラマティーチャーです。

「ありのままの自分を受け入れてもらえる安心感を、高校のドラマクラスで初めて感じた。」と同級生は言います。個性の最大公約数を引出すのが仕事なので、ドラマティーチャーは本気で個々の悩みとも向き合います。本当に自分を引出してくれるドラマティーチャーに出会えた子にとっては、その人こそが人生のスーパーヒーローなのです。

ありのままの自分を受け入れてもらえる安心感。私自身も自分に自信が持てないジレンマが強かったからこそ、この職業に魅力を感じているのかもしれません。私は知ればしるほど、益々やりがいを感じています。

 

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