.国際  投稿日:2016/12/10

トランプ外交、予測不可能 どこへ向かう?アメリカ その5

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大原ケイ(米国在住リテラリー・エージェント)

「アメリカ本音通信」

日本国内の書店は既にドナルド・トランプ関連の本で溢れており、年頭の雑誌企画も「トランプ政権誕生で日本はどうなる?」というテーマで特集が組まれているようだが、彼の行動を予測したり、思考回路を分析しようという試みは不可能で紙面の無駄としか考えられない。何しろ、時代は「ポスト・ファクト」、トランプにかかればどんな嘘も真実となり、どんな事実を突き付けようとも彼を納得させることはできないのだから。

国内問題はまだいい。トランプがどんな政策を立てようとしても、とりあえずは共和党が過半数を占める米下院議会で検討されるのだから。問題は外交だ。軍事関連では、トランプが選んだガチガチのタカ派の元軍人が幅を利かせる。商業政策では、自分のちまちましたカジノや不動産の取引しか知らないトランプが、知った顔で世界の国々にアメリカに有利な条約を結ぼうとするだろう。

次期大統領となってから既に3つの失敗を犯している。まず最初がパキスタンのナワズ・シャリフ首相との電話の内容を公表されたこと。パキスタン側の会話がすっぽり抜け落ちた不思議な文書だが、トランプのいつもの口調がそのまま記されており、偽造したものとは考えられないところがまたお粗末だ。今年の1月に彼はツイッターでパキスタンは「友好国ではない」「何十億ドルもの支援をしているのに裏切られてばかりだ」と発信していたのにもかかわらず、パキスタンの国家と国民を持ち上げるオベンチャラを言っていたのがバレてしまった。

そして一方ではインドを「我々の親友」ベタ褒めもしている。お互いに核兵器を持ち、国境で睨み合いを続けているこの2カ国間の関係を理解しているのか、いないのか。自分の政策である「イスラム教徒の入国禁止」を実行すれば多くのパキスタン人の入国はどうなるのか、理解しているとは言い難い行動だ。

二つ目は、麻薬撲滅政策の下に5000人もの国民の虐殺をもいとわぬフィリピンのロドリゴ・デュテルテとの電話。国家のリーダーにあるまじき汚い言葉でオバマ大統領を批判し続けているデュテルテの政策を褒め、ホワイトハウスに招待すると言ったらしい。

そして日本の立場も微妙になるのが台湾の蔡英文総統と電話で話をした、とする報道だ。「当選祝いの電話を取っただけ」と言い訳し、中国政府も大いにイラついたことだろう。アメリカのメディアでは、ニクソン政権以来アメリカ政府の立場である「一つの中国」外交をもしかして知らないのか、あるいは知っていたとしてわざと中国との関係を悪化させるからには、中国外国の根本的な方針変更を覚悟してのことなのかと大騒ぎになった。

後日の調査で、この電話は実は台湾のロビイストにたんまり金を積まれたロビイスト団体の弁護士事務所に所属するボブ・ドールが周到に数ヶ月前から準備していたものだということが明かされた。ボブ・ドールといえば1996年の大統領選挙に共和党候補としてビル・クリントンに敗れた共和党のベテラン政治家だ。今年の大統領選では最初ジェブ・ブッシュやマルコ・ルビオを推薦していた。他の前大統領や大統領候補が軒並み欠席した夏の共和党大会に前上院議長、前大統領候補として出席していたのがドールだけだったことが思い起こされるが、それはトランプ支持というより、共和党に忠誠を誓った良識派のベテラン政治家としての立場だったと思われていたが、そうではなかったようだ。

いずれにしろ、トランプの世界観は白人至上主義者による陰謀論がひしめくブライトバートというニュースサイトから得られたものであり、現行の世界政治とは全く異なった外交が見えているのだろう。米タイム誌はトランプを2016年の「パーソン・オブ・ザ・イヤー」に選んだ。ヒットラーもスターリンもこの授かった名誉ある表紙であることを追記しておく。

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この記事を書いた人
大原ケイリテラリーエージェント

ニューヨークを拠点に日本の著書を欧米に売り込むべく孤軍奮闘するリテラリー・エージェント。ニューヨーク大学の学生だったときはタブロイド新聞の見出しを書くコピーライターを目指すも、今はバイリンガルで親爺ギャグを飛ばすに至る。

大原ケイ

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