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.国際  投稿日:2014/2/5

[藤田正美]日本の将来がかかる6月の成長戦略〜安倍政権は世界を驚かすような「成長戦略」を打ち出さなければならない


 

Japan In-Depth副編集長(国際・外交担当)

藤田正美(ジャーナリスト)

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日本の株価が荒れている。2月4日の日経平均は610円と今年最大の下げ幅となった。1万4000円割れ目前である。最大の原因はアメリカだ。FRB(連邦準備理事会)が出口戦略にそろりと動き出して、リスクを避ける資金が新興国からアメリカに還流している。そのため、新興国は為替安に直撃され、またドル不足に襲われる。1997年のアジア通貨危機と同じ構造と言えるかもしれない。それにアメリカの一部経済指標が悪かった。

超金融緩和の縮小に伴ってリスクを避ける資金はドルに向かうと同時に円にも向かう。いま世界でこうした資金を受け止められる通貨はドルと円しかないと元日銀マンが教えてくれた。それで円高になった。しかし円になった資金は株式には向かわない。むしろ株を売って、国債を買うのだろう。

問題はここにある。海外も含めて投資家が日本経済の先行きに確信を持っていたら、株に向かっていいはずだが、そうはなっていない。それはアベノミクス第3の矢に失望しかかっているということだ。すなわち、安倍首相では国内の抵抗勢力を打ち破って、岩盤規制に穴を開けることができないだろうと見ている。

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安倍首相は1月下旬に開かれたダボス会議に出席し、日本の首相として初めて基調講演に臨んでいる。そこですべての岩盤規制に2年間で挑戦するという意味のことを言った。それにもかかわらず、投資家はアベノミクスに失望しはじめているのである。

その意味で、6月の新成長戦略の発表は、重要な安倍内閣のステートメントになる。そこで真っ先に発表するのは、すぐにできること。すなわち法人税の引き下げである。他の方策はなかなかすぐに目に見えるようにはならないが、税率の引き下げはその点心配ない。

ただ法人税率をたとえ今の世界のおおよその水準である20%にまで引き下げても、すぐに工場などが戻ってくるわけではない。TPP(環太平洋パートナーシップ)のような、安定した経済協力グループに入らなければ、日本からの輸出が競争力をもてないからだ。海外企業を呼ぼうにも、実際問題、それで日本への進出を決めた企業がぞくぞくと登場しているわけではない。これまで何度も政府は海外企業を誘致しようとしてきたが、結果的にはほとんど成果を挙げていないのが実態だ。

ダボス会議に出席した竹中平蔵・慶應大学教授によれば、確かに一の矢、二の矢の評価は高かったが、三の矢は「どうせ大したものは出てこない」というように高をくくっている向きが多かったという。その意味で安倍政権は、世界をちょっと驚かすような「成長戦略」を打ち出さなければならない。徹底した規制緩和や、あるいは新製品、新技術開発のための特区の設置による競争のバックアップだ。

小泉純一郎元首相の政治スタイルについてはいろいろ批判もあった。しかし小泉元首相があれだけ思い切ったことを言えたのは、失うものがなかったからである。それに対して安倍首相はどうだろう。名門政治家であること、2度目の首相であること、自民党内の基盤があることなど、裏を返せば、「自民党内のしがらみにどっぷり浸かっている」ということだ。失うものが多すぎると思う。だから財政支出のようなことはすぐに決まるが、誰かの権益に切り込むことはなかなか決まらない。TPP交渉の成り行きにもそれがよく表れている。

しがらみを切り捨てても、日本経済の改革を行うとすれば、当然のことながら党内からの造反も覚悟しなければなるまい。アメリカのオバマ大統領もTPPを推進しようとすれば、与党民主党の反対に直面する。雇用を不安視する労働組合が反対するからだ。安倍首相がここをどう乗り切るのか。それによって6月への期待度は大きく変わるだろう。

もしここで失望させてしまったら、最悪の場合、日本の経済は漂流する。ダボス会議報告会にパネラーとして出席していたオリックスの宮内義彦氏がこう言っていたのが気になる。「最悪のシナリオをいつも考えているが、この場では話したくない」

 

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