プロとアマの違い 自由と自己責任
為末大(スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役)
スポーツにおけるプロとアマチュアについて私なりに考えてみると、一番の違いは自分の成長の責任と、結果責任を自分で負うという点にあると思う。
アマチュアのチーム(高校のチームなど)はチーム一丸となって練習をして、ある程度練習の内容が決まっているので皆それなりに成長する仕組みがある。本人のやる気の大小に関わらずチームの空気やシステムで個人は成長することができる。勝つ負けるの責任を選手たちは多少は負うけれども、言われた通りやっていたという点で、全部の責任を感じなくてもいい。
一方で、プロの世界では、結果責任を個人がとる。誰かが無理やり練習をさせるわけでも、メニューが決まっているわけでもない。トレーニングをやらなくて問題ないが、それで負けるのは本人で、損をするのも本人でしかない。自分をどう成長させていくかの全責任を自分自身が負っている。それに失敗すれば淘汰されるだけだし、うまくいけば勝利を手にすることができる。責任を感じようか感じまいが、いずれにせよ自分の人生で取らさせることになる。
勝利者の枠が無尽蔵に増えていくのであれば、プロの世界もそこまで厳しくはないが実際勝利者の数は少ない。またチームのレギュラー数にも限りがあるので、そこを必死で争うことになる。プロの世界ではアマチュアの世界とは違い、努力しない人を励ましたりしない。また一人転げ落ちただけだと一瞥して終わる。
アマチュアの世界は成長することや勝利の責任をチーム(指導者)に預ける代わりに、自由を一定量手放す。
プロのチームは、自己の成長や勝利の責任を負う代わりに、自由を手に入れる。
今、働き方について様々な議論がなされているが、結局のところ日本がプロ化しようとしていると私には聞こえる。もう自由を組織に捧げなくてもいい代わりに、誰もあなたの成長の責任をとってはくれない。働く時間も自由になるが、代わりに何かを生み出せない人はいくら時間を費やしても評価してもらえない。
自由は素晴らしいが、恐ろしいものでもある。どうもこの流れは止まらなさそうだから、適応した方がよさそうだと個人的には思っている。
(為末大HP より)
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この記事を書いた人
為末大スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役
1978年5月3日、広島県生まれ。『侍ハードラー』の異名で知られ、未だに破られていない男子400mハードルの日本 記録保持者2005年ヘルシンキ世界選手権で初めて日本人が世界大会トラック種目 で2度メダルを獲得するという快挙を達成。オリンピックはシドニー、アテネ、北京の3 大会に出場。2010年、アスリートの社会的自立を支援する「一般社団法人アスリート・ソサエティ」 を設立。現在、代表理事を務めている。さらに、2011年、地元広島で自身のランニン グクラブ「CHASKI(チャスキ)」を立ち上げ、子どもたちに運動と学習能力をアップす る陸上教室も開催している。また、東日本大震災発生直後、自身の公式サイトを通じ て「TEAM JAPAN」を立ち上げ、競技の枠を超えた多くのアスリートに参加を呼びか けるなど、幅広く活動している。 今後は「スポーツを通じて社会に貢献したい」と次なる目標に向かってスタートを切る。