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.国際  投稿日:2017/4/4

米中首脳会談、「北朝鮮」で進展は?


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2017#142017439日)

【まとめ】

・米中首脳会談、焦点は「北朝鮮問題」。

・今は「情報戦」の段階、米単独行動の可能性は低い。

・中国が北朝鮮に圧力かけるかは不透明。

 

今週のハイライトは6-7日の米中首脳会談だと書こうとしたら、ロシアの地下鉄で悲惨なテロ事件が起きたという臨時ニュースが飛び込んできた。それにもかかわらず、不思議にも日本のメディアの関心は、今回の米中首脳会談で「北朝鮮問題」がどの程度話し合われるか、にほぼ集中しているようだ。

トランプ氏はFT紙のインタビューで、「中国が北朝鮮に圧力を掛けたら米軍の朝鮮半島撤退を保証する大取引を考えるか」と問われ、”Well, if China is not going to solve North Korea, we will. That is all I am telling you.”「中国が北朝鮮問題を解決しないなら、我々がやる。言えるのはそれだけだ」と述べたそうだ。

日本の一部夕刊タブロイド紙はトランプ氏が対北朝鮮武力攻撃を検討中などと大々的に報じたが、筆者の見立てはちょっと違う。トランプ氏の発言通り、今回米国は「中国がやらなければ、米国単独でもやる」覚悟を示したということ。現時点ではそれ以上でも、それ以下でもない。

要するに、今は「情報戦」の段階で、直ちに攻撃が始まる訳ではない。メディアは盛んに「斬首作戦、特殊部隊による暗殺」というが、そもそも、そのような攻撃を国際法上如何に正当化するのか。確かに、トランプ氏は大統領就任直後、60日以内に対北朝鮮措置の検討を命ずる大統領令に署名した。

北朝鮮北西部の弾道ミサイル発射基地などへのミサイルや有人・無人の航空機などによる限定的な爆撃が検討されているとも報じられた。だが、予防攻撃だろうが、何だろうが、そもそも成功するのか。更には、そうした行為が1953年の朝鮮戦争休戦協定違反とはならないのか。この点も忘れてはならない。

米国防総省の官僚組織は、各種の具体的攻撃方法だけでなく、それぞれの法的側面まで同時にしっかり検討している。そんなに簡単に攻撃が可能だとは到底思えない。トランプ政権は米側の軍事攻撃が必ずしも全面戦争にはつながらないという認識を強め始めたとも報じられた。しかし、根拠は一体何なのか。

現状はあまりに不確実性が高く、今米国が単独行動を取る可能性は低い。それよりも米国にとり今最も大事なことは、米中首脳会談の直前に、「米国が本気で、第二次朝鮮戦争勃発も覚悟の上で、強制力を伴う外交を始めた」と中朝指導者に確信させること。その上で中朝の動きを見るのが米国の目論見だろう。 

THAADが取引材料になる可能性は低い。そんなバーゲンをすれば、米国は日韓の信頼を失う。これはノンスターターだ。南シナ海問題も中国に対するバーターとはならない。南シナ海は朝鮮半島とは別の地政学的、戦略的重要問題であり、普通の政権であれば、北朝鮮問題と同列に扱うという発想にはならない。

尤もトランプ政権は「普通ではない」から、これ以上推測しても意味はないかもしれない。4月中に北朝鮮が新型ミサイル発射や核実験を強行する可能性は高いが、そのタイミングはあくまで核開発計画のスケジュール次第であって、米中首脳会談か、故金日成主席生誕105周年かといってもあまり意味はない。

問題は中国側の反応だが、北朝鮮をバッファ(緩衝地帯)として維持する政策は変わっていない。米中首脳会談では、北朝鮮以外にも、貿易、南シナ海、サイバー、宇宙戦問題、人権など多くの問題が議論されるはず。筆者が習近平国家主席なら、これらを絡めて北朝鮮に対する圧力を最小限にする努力を払う。

 

〇欧州・ロシア

ロシアのサンクトペテルブルク地下鉄車内で3日に爆発が起きた。現時点でロシア政府は少なくとも10人が死亡、50人近くが負傷したと発表したが、プーチン大統領はテロの可能性に言及した。これは決して偶然ではなかろう。やはり、ロシアの対シリア軍事介入のコストは高くついたということだ。

 

〇東アジア・大洋州

3-5日に日本とEUが経済連携協定(EPA)交渉会合を都内で開く。習近平国家主席は5日にフィンランドを公式訪問する。既に述べた通り、6-7日には米中首脳会談がフロリダで行われる。中国の要人の話は概して長いが、果たしてトランプ氏は我慢できるだろうか。彼は正直だから、ちょっとした見物である。

 

〇中東・アフリカ

3日に米エジプト首脳会談がワシントンで開かれる。トランプ政権はオバマ政権とは大きく異なり、エジプト大統領を歓迎し、支持するようだ。米国の中東政策は間違いなく、オバマ時代の前に戻りつつあるのか。それではオバマ大統領の中東政策は一体何だったのか。疑問は尽きない。

ところで、イラクのモスル、シリアのラッカ、これらは一体どうなったのか。一般市民を人質にできる都市に拠点を置いたイスラム国の掃討作戦は予想以上に難しい。というか、民主主義国には難しいだけで、人質もろとも皆殺しにする中東の独裁国家だったら、もっと簡単なのかもしれないが・・・。

 

〇南北アメリカ

米中首脳会談については冒頭書いた通り。それ以外のトランプ政権をめぐる状況は相変わらずだ。支離滅裂というべきか、良く維持しているものだと感心すべきか。筆者は後者である。今のホワイトハウスを批判しても、状況は変わらない。彼らは素人っぽいが、その能力を決して過小評価すべきではない。

 

〇インド亜大陸

9日に豪州の首相がインドを訪問する。オーストラリアは環インド洋地域の国でもあるのだ。

今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。


この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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