都議選敗北、安倍首相の将来暗示
宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2017#27(2017年7月3-9日)
【まとめ】
・東京発ロイター、都議選の結果報じる。「総理の将来を暗示している」
・中国習近平主席、G20前にロシア、ドイツと首脳会談で地ならし。
・米トランプ政権は以前、健在。
今週は珍しく日本の政治についてコメントする。普通なら黙っているところだが、今回ばかりはコメントせざるを得ない。世界のマスコミは今回の小池百合子知事の勝利に終わった都議選の結果をどう報じるのだろうか。安倍政権に関する世界の評価は変わるのだろうか。こんなことが結構気になるからだ。
そうはいっても、現時点で配信しているのは東京発のロイターだけらしい。その要旨は、
● 安倍の自民党が都議選で歴史的敗北を喫し、スキャンダルで傷付いた総理の将来の問題を暗示している。
● 石破茂氏は、「都民ファーストの勝利というより、自民党の歴史的敗北だ」と述べた。
● 小池知事は総理を狙うとの観測もあるが、それがあるとしても2020年の東京五輪以降となる可能性が高い。
● 日本の政治学者は、安倍が狙っていた自民党総裁三選と憲法改正は難しくなった、と語った。
● より重要なことは、日本の有権者が安倍政権はより尊大になったという印象を持ち始めたことだ。
● このダメージから回復するため安倍は内閣改造を狙っているが、それは逆効果ともなり得る・・・・
毎回この種の記事を書くのは日本在住の長い名物記者だが、内容的には政府に批判的な邦字紙の記事を纏めて書くケースが少なくない。
逆に言えば、この種の邦字氏の論調が日本の内政関連記事のトーンを決めるのだ。今後、ワシントンポストやフィナンシャルタイムズがどう書くか、個人的には興味津々だ。
〇欧州・ロシア
3-4日に中国の国家主席がロシアを訪問し、首脳会談を行う。更に、同主席は5-6日にドイツを訪問し首脳会談を行う。7-8日に予定されるG20前の欧州歴訪だが、中国の外交には無駄がない。民主主義のない国の外交は実にプロフェショナルである。
〇東アジア・大洋州
2日の米保守系メディアは米国防当局者の話として、米海軍艦船が中国が実効支配する南シナ海の西沙(パラセル)諸島のトリトン島から12海里内を航行したと報じた。5月に南沙(スプラトリー)諸島で実施して以来の「航行の自由」作戦となる。
同作戦はトランプ政権下で既に2度目。しかも、同大統領は翌日に中国国家主席と電話協議を控えていた。トランプ政権の対中政策は意外に強硬だ。それがトランプ氏の本心なのか、それとも、単にオバマ大統領がやらなかったことをやっているだけなのか、は正直分からない。
〇中東・アフリカ
イラクのアバディ首相はイラク北部モースル奪還作戦が「あと数日で終わる」などと公言していたが、民間人の犠牲を考慮してか、まだ実現していない。1980年代、アサド(父親)大統領は、イスラム過激派に対し情け容赦のない掃討作戦を実施し、民間人に多大な犠牲者が出たが、全く意に介さなかった。時代は変わったのだ。
〇南北アメリカ
トランプ政権は健在だ。結果次第では中間選挙前にも共和党議員が「トランプ降し」を始めるかと思われたジョージア州下院議員補選は、共和党候補がかろうじて勝利した。これで大統領弾劾の話は当分動かないのだろう。ワシントンの政治エリートたちの憂鬱は終わりそうにない。
〇インド亜大陸
4日にインド首相がイスラエルを訪問する。目立たない訪問だが、極めて重要だと思う。
今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
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この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表
1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。
2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。
2006年立命館大学客員教授。
2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。
2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)
言語:英語、中国語、アラビア語。
特技:サックス、ベースギター。
趣味:バンド活動。
各種メディアで評論活動。