習近平氏3選に向け憲法改正へ
宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2018#09
2018年2月26日-3月4日
【まとめ】
・中国国家主席の3選を禁止する中国憲法の改正問題が急浮上。
・ドイツ大連立案、メルケル首相は求心力を維持できるのか。
・3月18日露大統領選挙に向け親プーチン陣営選挙活動活発化。
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先週末、国家主席の三選を禁止する中国憲法の改正問題が急浮上した。同憲法第79条第3項は国家主席・副主席の任期につき「2期を超えて連続して就任することはできない」と定めている。ところが25日、中国共産党中央委はこの規定を削除して国家主席・副主席の任期の上限を事実上廃止する提案を発表したと報じられた。
同改正案は3月5日に始まる全人代で審議・可決される見通しという。それにしても何とも簡単な憲法改正だろうか。日本では考えられない簡素な手続きで習近平国家主席の長期政権が実現するのだから。それにしても中国国内は異様に静かだ。当初ネットに「我々も北朝鮮になるのか」との投稿もあったが、直ぐに削除されたらしい。
写真)第12期全国人民代表大会 2013年
出典)美国之音记者东方
中国国内よりも興味深いのはこのニュースを聞いた日本の中国専門家の反応だった。習近平氏の権力集中を批判的に見てきた人々は、「そら見たことか」と溜飲を下げた。これに対し、習氏の権力集中を「限定的であくまで中国改革のため必要」と好意的に見てきた向きには想定外の事態だったらしく、彼らは少なからず狼狽していた。
習近平氏の権力集中は、個人独裁禁止の要請と国家経済改革の必要性の狭間で絶妙のバランスをとるものという従来の説明は今や空しい。「権力は腐敗し、絶対的権力は絶対に腐敗する」と言ったのは英国の歴史家ジョン・アクトンだが、この格言は筆者の学生時代にも左翼系活動家が自民党政権に対し再三使っていたものだ。
写真)ジョン・アクトン
出典)free photo
歴史は繰り返さないが、押韻する。今回の憲法改正で習近平氏の権力基盤が一時的に強化されることは間違いなかろう。問題はそのような絶対的権力が何時まで続くかだ。北京の指導者たちが中国という存在を如何に認識しているのか、これを変えようとしているのか否か。これらが分かるには今暫く時間がかかりそうである。
〇 欧州・ロシア
今週の欧州は忙しい。25日にはスペイン国王がバルセロナを訪れる。カタルーニャ騒動が始まって初だが、これで和解が進むのだろうか。今週EUはイギリスの離脱に関する合意案を発表するらしいが、大丈夫なのか。また、3月2日には英国首相がEU・英国関係につき立場を明らかにする予定だが、これも前途多難だろう。
写真)スペイン国フェリペ6世 (中央)(2014年7月11日)
flickr : Junta de Andalucía
26日にはドイツの与党CDUが大連立案を承認する見込みと一部で報じられたが、メルケル首相が求心力を維持できるのか注目される。同じく26日にはギリシャの債権国がアテネで、ギリシャ債務問題の解決につき4回目の会合を始めるそうだ。おいおい、あの問題はまだ解決していなかったのか。
写真)独メルケル首相 2017年9月29日
flickr : EU2017EE Estonian Presidency
3月1日にはロシア大統領の施政方針演説があり、3日からは3月18日のロシア大統領選挙に向け親プーチン陣営の選挙活動が活発化するという。更に、4日にはイタリアで総選挙がある。あまり目立たないが、今週以降、欧州では政治イベントが続くので要注意だ。
写真)ロシアプーチン大統領 2018年2月26日
出典)露大統領府
〇 東アジア・大洋州
中国圏の春節が終わり、3月3日から13期全国政協第1回会議が、5日からは第13期全人代第1回会議がそれぞれ始まる。韓国ではオリンピックが終わり、パラリンピックのための最終準備が始まる。韓国大統領は南北対話のモメンタムを維持したいのだろうが、こうした姿勢が吉と出るか、凶と出るかは未だ判らない。
〇 中東・アフリカ
今週の中東も静かだ。トルコ大統領が26日から5日間でアルジェリアなどアフリカ諸国4カ国を訪問する。
〇 南北アメリカ
写真)メキシコ大統領(左)とトランプ氏(右) (2017年7月7日)
メキシコと米国の関係が再び悪化している。トランプ氏はメキシコ大統領との電話会談で「国境の壁」建設の費用をメキシコが負担しないことを公に認めることを拒否したため、既に発表されていたメキシコ大統領訪米が中止になったと報じられた。慣れっこになってしまったとはいえ、こんな外交的失態を常態化させてはならないのだが。
〇 インド亜大陸
27日にヨルダン国王がインドを訪問する。3月3日にパキスタンで上院選挙がある。
今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
写真)習近平中国国家主席 2017年7月 BRICS指導者会議
出典)露大統領府
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この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表
1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。
2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。
2006年立命館大学客員教授。
2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。
2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)
言語:英語、中国語、アラビア語。
特技:サックス、ベースギター。
趣味:バンド活動。
各種メディアで評論活動。