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.国際  投稿日:2018/3/21

露、蛮行も平然かつ確実に実行


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

宮家邦彦の外交・安保カレンダー2018#12

2018年3月19-25日

【まとめ】

・蛮行も平然なロシア、これほど政治の実態が変わらぬ国はない。

・「移行期間」1年9か月で合意。EU離脱後の英国の姿見えず。

大統領選で圧勝した地でも見え始めたトランプ神話の陰り。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されず、写真説明と出典のみ記されていることがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttp://japan-indepth.jp/?p=39083でお読み下さい。】

 

今週はお詫びから始めたい。18日にロシアで重要な大統領選挙があったにも関わらず、先週は全くコメントしなかった。プーチン再選があまりに明白でロシア内政に殆ど変化が期待できなかったからだが、理由はともかく、やはり先週は何かコメントすべきだった。米朝首脳会談の話に忙殺されたためだが、それは全く理由にならない。

それにしても、ロシアは実に強い国だ。政治制度や理念に普遍性や魅力があるからではない。数少ない優れた産品である武器も特に最先端技術の集大成ではない。それでもロシアが強いのは、外国が如何に批判しようと、自国が如何に孤立しようと、彼らが必要と思えば、如何なる蛮行も平然と、かつ確実に実行する力があるからだ。

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▲写真 大統領選挙が終わった後、ロシアと外国のジャーナリストからの質問に答えたプーチン大統領 出典 ロシア大統領府

その典型例が最近の英国での元ロシア人スパイ親子暗殺未遂事件である。冷戦時代のスパイ映画を彷彿させるこの事件に英国政府はカンカンだが、ロシア政府は完全に無視している。政治体制が社会主義であろうが、民主主義もどきであろうが、これほど政治の実態が変わらない国は少ない。恐らく中国が民主化しても同様だろう。

ジョージ・バーナード・ショー作の喜劇『人と超人』に次のようなセリフがある。「全ての歴史は(天国と地獄という)両極端間にある世界の振動の記録に過ぎない。歴史の一期間とは振子のひと振りでしかないが、これが常に動いているので、各世代は世界が進歩していると思っている」ロシアの歴史も基本的にはこれと変わらないのだろう。

ほぼ同時期に、中国では習近平氏の終身国家主席が決まり、ロシアゲート特別検察官の解任を密かに企む米国のトランプ氏は、民主制度の真髄である三権分立下のチェック&バランスという概念自体に嫌悪を隠そうとしない。これに対し、日本ではモリトモやカケ問題で長期政権が追い詰められている。真の民主国家は日本である。

 

〇 欧州・ロシア

英国のEU離脱問題で進展があった。19日、EU側交渉官は焦点となっていた離脱後の激変緩和に向けた「移行期間」を1年9カ月とすることで双方が合意したと発表。合意内容は22-23日にEU首脳会議に報告されるという。ようやく決まったようだが、英国離脱後の姿はまだ明らかではない。一歩前進だが道はまだ遠し、ということか。

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▲写真 EUとの将来の経済連携に関するスピーチを行ったメイ首相(2018年3月2日) 出典 イギリス首相府

ロシア外相が訪日し、21日に日露外相会談が東京で開かれる。5月には安倍首相の訪ロが予定されており、今回の外相会談の目的は首脳会談の「環境整備」といわれるが、そう簡単ではないだろう。ロシアのラブロフ外相に限らず、ソ連の時代からロシアの外相は任期が長い割に柔軟性に欠ける。これも彼らの伝統の一部なのか。

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▲写真 ラブロフ外相(左)とプーチン大統領(右) 出典 ロシア大統領府

 

〇 東アジア・大洋州

20日に中国の全人代が閉幕した。副首相に習近平氏の経済ブレーンといわれる劉鶴・党中央財経指導グループ弁公室主任が就任。王毅外交部長が兼務で国務委員に昇格するなどの人事が決まった。副首相、国務委員の数や構成に大きな変化はない。習近平氏の権力集中ばかりが目立った形だ。

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▲写真 第13期全人代第1回会議 出典 中華人民共和国人民中央政府

北朝鮮関連で目立った動きはない。水面下で南北の話し合いが続いているのか、それとも大きな進展はないのか。4月1日には平昌五輪等で延期されていた米韓合同軍事演習が実施される。19日にフィンランドで開かれる非公開国際会議に北朝鮮外務省北米副局長が参加するというが、このレベルの職員に実質的交渉権限はない。

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▲写真 日米間合同訓練の一環として、米空軍B-1Bランサー爆撃機と米海兵隊F-35BライトニングIIが韓国のピルスンレンジ訓練場で行った爆撃訓練 2017年8月30日 出典 USNI News

 

〇 中東・アフリカ

19日からサウジアラビア皇太子が訪米する。このムハンマッド・ビン・サルマーン(MbS)は実質的なサウジ最高権力者であり、トランプ氏の娘婿とも親しい。MbSは20日にトランプ氏と会談するほか、ボストン、ニューヨーク、ヒューストン、シアトル、サンフランシスコを訪問するという。MbSにとっては米国を良く知る良い機会となるだろう。

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▲写真 ホワイトハウスを訪れたサウジアラビアのムハンマッド・ビン・サルマーン皇太子(左) 出典 The White House

 

〇 南北アメリカ

先週からトランプ氏は再び選挙モードに戻ったようだ。Keep America Greatなるスローガンを作り、中間選挙に向け精力的に各地を回っているが、13日に行われたペンシルベニア州連邦下院議員補選では民主党候補が予想外の善戦で、議席を奪う勢い。大統領選で圧勝したこの地でトランプ神話に陰りが見え始めたようだ。

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▲写真 トランプ大統領 出典 トランプ大統領公式インスタグラム

 

〇 インド亜大陸

22日からドイツ大統領がインドを訪問する。

今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ画像:マネージ広場で勝利を祝うプーチン大統領 出典 ロシア大統領府


この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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