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.経済  投稿日:2018/4/19

深海底レアアースはペイしない


文谷数重(軍事専門誌ライター)

【まとめ】

深海底レアアースの採掘は難しい。だからコストも極めて高い。

・採掘に成功すればレアアース価格は暴落しペイしない。

・日本はエネルギー・鉱業資源の確保に不安感を抱いているが、経済性の議論はない。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されず、写真説明と出典のみ記されていることがあります。その場合はJapanIn-depthのサイトhttp://japan-indepth.jp/?p=39520でお読み下さい。】

 

深海底レアアースはうまくいかない。採掘は難しい。だからコストも極めて高い。そして成功すればレアアース価格は暴落する。そのためペイしない

深海底レアアース採掘が再びニュースとなっている。これは政府開発計画が提示された結果だ。6日付の日刊工業新聞電子版内閣府、深海域調査技術の開発計画 22年度までに100億円超計上」が報道された後、各メディアはあたかも資源開発が始まるかのような記事を配信している。

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▲写真 レアアース堆積物(いわゆるレアアース泥) 水深約6,000mの海底下に粘土状の堆積物に含まれて広く分布(南鳥島周辺海域)。 出典 経済産業省 資源エネルギー庁鉱物資源課(平成25年11月)

だが、これは技術開発と商業採掘を混同したものだ。政府で予算化が考慮されているのはあくまでも技術開発である。しかも海底表層部の泥を海面まで回収できるかどうかを見極めるものだ。商業採掘として安価かつ大量の底質を継続的に収集する技術の開発ではない。

では、深海底レアアースの商業採掘は可能なのだろうか?

経済的には意味はない。そこに落ち着く。以下その理由を述べる。

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▲図 レアアースの主な用途(経済産業省

 成功すれば価格は暴落する

深海底レアアース開発は意味はない。

なぜならレアアース価格の暴落を招くことだ。

深海底採掘はレアアースを対象としている。レアアースは極めて高価であり、同じように高コストとなる深海開発でも目論見が立つためだ。一番高いテルビウムはキログラムあたり7万円である。大雑把に言えば100億かけても14.5トン取れれば元は取れる。そういった計算である。

だが、テルビウムを14.5トンも採掘すれば相場は暴落する。世界の年間需要は酸化物ベースで130トン、単体に換算すれば100トン程度だからだ。ちなみに需要量が倍のユーロピウムの値段は1kgで2万円しない。なおレアアースはネオジミウムは5000円程度である、ランタニウムは1000円もしない。

一度は商業化しても価格暴落で採算が合わなくなる。そのような構造なのである。

 

 技術開発に成功するかも厳しい

また技術開発も難しい。

採掘そのものは可能だ。海底6000mでも泥をジエット水流で混濁させてチューブから抜くことはおそらくできる。多少減圧すれば混濁水は管路を容易に上る。海底は高圧だからだ。混濁状態も配管中途に適当なジェット噴射機構をつければ維持できる。

だが、それは固定式に造る場合である。静止した海面から海底方向に6000mのチューブあるいはダクトを垂らして安定させた状況であればできる。

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▲写真 採掘システム 出典 国立開発研究法人海洋研究開発機構

しかし、それでは間に合わない。これは海底にある泥を吸い尽くしたらどうするか? 海底での採掘半径内に泥がなくなったらどうするか? を考えればよい。

移動が必要となるが容易ではない。チューブ揚収と再設置をした場合、採掘している時間より揚収再設置のほうが時間がかかることとなりかねない。吊ったままの移動も難しい。全長200mの船で長さ6000mの極細垂直チューブを移動させるのだ。配管の挙動は読めない。

これも事業化を困難とする。一度、海底にパイプを刺せば年単位で採掘できる海底油田やガス田とは異なるのである。

なお、実用新案もコストを要する。移動のため配管100m毎に3軸式の推進ポッドをつけるといった工夫が必要となるかもしれない。だが、現状ではそのような運用例はないし、その開発・適用コストはおそらく相当に高い。推進機や電線の重さからチューブ・システムを中性浮力で造るといった工夫も必要となるだろう

 

 近傍に拠点はない

最後に挙げるのは距離の問題だ。レアアース堆積地に目されるのは小笠原以遠である。南鳥島や沖ノ鳥島のEEZである。

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▲写真 日本の領海等概念図 出典 海上保安庁

そこには拠点がない。付近の島は何も期待できない。

沖ノ鳥島は実態は岩礁である。日本は島といっているがそれだけのことだ。何の補給拠点ともならない。

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▲写真 沖ノ鳥島航空写真 出典 国土交通省

南鳥島も港湾はない。しかも補給の限界である。航空基地を持つ海自も隊員数も絞っている。水不足となれば人減らしで硫黄島に隊員を後退させる。

硫黄島も海空自衛隊だけの島だ。やはり港湾はなく補給機能と医療設備も最低限しかない。

つまりは、採掘母船は近傍の支援を受けられない。燃料や水、食料の輸送コストはさほどではない。だが、作業員交代の手間や賃金割増は費用は馬鹿にならない。休暇や急患のたびにヘリで南鳥島まで長距離移動し、硫黄島経由のチャーター便で送り迎えしなければならない。

そのような事業が採算にあうか。それも問題となる。

 

 メタンハイドレートと同じ

商業化の出目はないのである。

だが、その技術開発に政府は金を出すといい、マスコミもそれを好感する内容の記事を書く。

その理由は何か? 

日本人の資源飢餓感が反映したものだ。日本はエネルギー・鉱業資源の確保に不安感を抱いている。戦争は資源が手に入らなかったため負けた。オイルショックでも社会的混乱がおきた。だから資源を確保しなければならない。そう考えているからだ。

そこに問題点の指摘はない。経済性についての検討や批判的報道はない。あるのは「日本周辺にこれだけある」や「エネルギー大国になれる」といった夢物語だけだ。

トップ画像:レアアース元素 出典 photo by Terence Wright


この記事を書いた人
文谷数重軍事専門誌ライター

1973年埼玉県生まれ 1997年3月早大卒、海自一般幹部候補生として入隊。施設幹部として総監部、施設庁、統幕、C4SC等で周辺対策、NBC防護等に従事。2012年3月早大大学院修了(修士)、同4月退職。 現役当時から同人活動として海事系の評論を行う隅田金属を主催。退職後、軍事専門誌でライターとして活動。特に記事は新中国で評価され、TV等でも取り上げられているが、筆者に直接発注がないのが残念。

文谷数重

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