最新にして最大の掃海艦就役
文谷数重(軍事専門誌ライター)
【まとめ】
・3月16日、海自最新で最大の掃海艦「ひらど」が就役した。
・「ひらど」は優れた対機雷戦能力を誇る。
・EOD、水中処分員と呼ばれるダイバー運用機能も擁し、テロとの戦いに威力を発揮する。
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3月16日11時35分に、JMU鶴見造船所で掃海艦「ひらど」が自衛艦旗を掲揚、就役した。艦長は2等海佐相馬誉介。「あわじ」型の2番艦にあたる。排水量(重量)690トン、全量は67mである。
撮影:池田志信
撮影:池田志信
「ひらど」は海自最大の掃海艦艇である。その規模は従来艦に劣らない。一見すれば退役した「やえやま」型よりも縮小したようにみえる。だが、実際の船体容積は同じか、むしろ大きい。構造を従来艦の木造から軽量なFRP(Fiber-Reinforced Plastics)に改めた結果だ。
写真)掃海艦つしま(「やえやま」型)
出典)Andrew Smith, U.S. Navy
そのため今後の海外派遣の主役となる。海自掃海部隊は東半球で最高の能力を持つ。欧州海軍に次ぐ地位にあり、相当の分野で米海軍も凌いでいる。スエズ以東の主要航路・港湾で機雷が問題となった場合、「ひらど」が真っ先に派遣されることになる。
■ 対機雷戦能力は高い
その能力も高い。
「ひらど」の対機雷機材はすべて最新型で揃えられている。
ソーナーはOQQ-10だ。これは海底・水中を音波画像で捜索する機材である。特に「あわじ」「ひらど」用としては吊下式に作られている。これは海中変温層や河口での流入真水との二層分離対策だ。これらの境界面は走査音波を通さない。だからソーナー本体をその下に降ろせる仕組みにしている。
またTEM(target emulation mode)掃海機能も持つ。これは従来の掃海・掃討技法では対処不能な機雷にも対抗できる機能だ。例えば、泥の中に埋まってしまった機雷でも威力を発揮する。TEMにより通航させたい艦船にあわせた安全化ができる。
UUV(Unmanned Underwater Vehicles)と呼ばれる水中ドローンも用意されている。自動で海底音波画像を撮影して帰ってくるREMUS(Remote Environmental Monitoring Unit)、目標機雷まで自力移動しカメラで目標を確認後に体当たり自爆するEMD(Expendable Mine Disposal System)も準備されている。海自はUUV装備ではやや遅れていた、それが「あわじ」型で欧州海軍に追いついた形だ。これらの最新機材は国内展開、海外派遣を問わず威力を発揮するだろう。
写真)掃海艦あわじ (「あわじ」型)
photo by Yokohama1998
■ 水中処分員運用
「ひらど」にはもう一つ重要な能力がある。
それはEOD(Explosive Ordnance Disposal)、水中処分員と呼ばれるダイバー運用機能だ。潜水服を着用して機雷を除去する隊員である。強靭な体力と安定したメンタルが求められる仕事である。海自ではパイロット、潜水艦乗員と並ぶエリートと目されている。
EODはなんでもできる万能兵器だ。機械ではできない仕事ができる。このため海外派遣ではEODの出番は増える。任務は機械で機雷を爆破処分するだけではない。
例えば機雷の回収調査はEODしかできない。テロとの戦いなら機雷の出どころが問題となる。「どの組織が仕掛けたか」を明らかにするには「どこ製の機雷か」が鍵となる。そして、そのためには機雷を船上あるいは陸上に回収する必要がある。
また機雷の水中移動もEODしかできない。民家や造船所、桟橋の近くに落ちた機雷はやたらと爆破処分できない。だから船が通らない安全な場所に集める、あるいはそこで爆破しなければならない。これも機械ではできない。
変わったところでは船底に取り付けられた時限機雷の除去もある。引き剥がすにはSWAGと呼ばれる小道具を使うが、これも上手に使えるのはEODだけだ。
「あわじ」「ひらど」はEOD運用能力でも優れる。支援機材等は従来艇と大差はない。だが船体が大きい海外等遠隔地での長期作業に向く。後甲板の作業スペースも広いため作業支援もしやすい。居住性向上もあるためEODほか隊員の疲労蓄積防止でも掃海艦艇では一番である。
なお艦長の相馬2佐はEODである。「ひらど」はEOD運用でも秀でた掃海艦となるだろう。
写真)掃海艦「ひらど」引渡式・自衛艦旗授与式での様子
撮影:池田志信
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この記事を書いた人
文谷数重軍事専門誌ライター
1973年埼玉県生まれ 1997年3月早大卒、海自一般幹部候補生として入隊。施設幹部として総監部、施設庁、統幕、C4SC等で周辺対策、NBC防護等に従事。2012年3月早大大学院修了(修士)、同4月退職。 現役当時から同人活動として海事系の評論を行う隅田金属を主催。退職後、軍事専門誌でライターとして活動。特に記事は新中国で評価され、TV等でも取り上げられているが、筆者に直接発注がないのが残念。