<フェアとは何だろう?>オリンピックよりパラリンピックの方が実世界を反映している
為末大(スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役)
パラリンピックが閉幕した。
個々人としては様々な思いがあったと思うけれど、日本選手団としては概ねよい結果だったのだと思う。私としては初めてのパラリンピック、しかも初めての冬季五輪に関われてとても楽しかっ たし勉強になった。
ソチで実際に競技を見て感じたのは、パラリンピックはフェアネスについてとても示唆深いものを提供してくれているという事だった。選手の障害の状況は突き詰めれば、誰一人として同じものがない。障害の程度に係数をかけて同じ勝負の場で競う。
たぶん完全にフェアではないだろうと思う。どの部分で切断しているか、同じチェアスキーでも腹筋が使えるかどうかによって力の入り具合もバランスも違うだろう。係数をかけてもそれを補いきるのは難しいだろう。かといって全員を別カテゴリーにする事はできない。
ふと「フェアとは何だろうか」と思う。僕は足が速かった。きっと僕に勝てなくて、僕よりも努力していた人もいただろう。才能の有無には係数はかかっていない。2mある選手と160cmの選手も同じ舞台で戦っている。いったい、どこまでが緩衝すべき差なのか。
障害の差を緩衝する係数、また用具の発達による先進国途上国の経済的格差の緩衝。私達が社会の中で、どう健全な競争を保っていくかをパラリンピックの舞台が実戦しているように思えた。パラリンピックの選手村内では用具の修理を無償で行っている。差を埋める為に。
スポーツとして成り立つバランスを保ちながら、興行的側面も成り立たせながら、様々なルールを決めていく。僕にはオリンピックよりパラリンピックの方が実世界を反映しているような姿に見えた。
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