[安倍宏行]<3・11震災復興の実態>被災企業の復興を阻む使い勝手の悪い「グループ化補助金」
Japan In-Depth編集長
安倍宏行(ジャーナリスト)
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報道によると、安倍晋三首相はこの4月27日、被災地の岩手県を訪れ、記者団に「復興が着実に進んでいると実感した。今後復興を進めていく上で、地域の観光を含めた産業の再生が大切だ」と強調したという。
何をもって復興が着実に進んでいると実感したのかわからないが、震災直後から被災企業を取材している私には「着実に進んでいる」と言い切る自信は、ない。
その最大の理由は、政府が復興の目玉として震災直後に作った「グループ化補助金」の使い勝手の悪さだ。正式には、「中小企業等グループ施設等復旧整備補助事業」といい、民主党政権時にスタートした。関連業種の複数企業がグループとして申請すると下りる中小企業庁管轄の補助金である。被災企業のほとんどにこの補助金が行き渡り、復興の槌音が被災地に響いていると多くの人が思うだろう。
しかし、実態はそれとはかけ離れている。 石巻市では2011年12月に、水産加工業者約200社がグループを組んで申請し、補助金交付の決定を受けた。他の被災地に先駆けて補助金交付の決定を受けた。
2013年の6月に同地を訪れた時には、既に工場移転や設備更新が終わり、一部工場では生産が開始されていた。これでも早いケースだ。
一方で、同じ石巻市の中規模造船所は、地震と津波で削り取られた岸壁の修復・防潮堤の建設計画と地盤沈下した海底の底上げ土木工事の予算調整で、補助金の審査が遅れに遅れ、交付の決定が下りたのがようやく今年に入ってからだ。工場の本格稼働は早くてもこの夏だろう。
震災から3年経っても復興の歩みは驚くほど遅い。とにかく審査に時間がかかりすぎるのだ。それが中小被災企業の体力をじわじわ奪っていく。 グループ化補助金を申請できる企業はまだましだ。そもそもグループ化出来なければこの補助金を受けることはできない。
又、内陸部で津波の被害はなくても地震で建物が倒壊したり、設備が壊れたりした企業も多い。こうした被災企業に手厚い支援が届いているかというと実態はお寒いかぎりだ。
岩手県北上市にある小規模な日本酒の蔵元は、3・11の地震と、その後の余震で蔵の一部がほぼ全壊、極めて危険な状態で作業を強いられている。震災で倒壊した建物の残骸の撤去費用を負担してくれる自治体もあれば、してくれない自治体もあるということで、公平性に問題もあるようだ。
そもそも、メディアが津波の被害が大きい沿岸部の取材に力を注いでいることもあり、内陸部は注目を集めていない。
しかし、私が取材した限り、北上市や一関市など内陸でも古い建物はかなりのダメージを受けており、企業の中には事業継続性が危ぶまれているケースが少なくない。 また、気仙沼市の牡蠣養殖業者もグループ化補助金には頼れなかった。
紆余曲折を経て、結局、偶然知り合った海外系のファンドを頼り、何とか工場の再建を果たしたが、実際に出荷が始まったのは去年の11月になってからだった。
公的支援を受けられなくても復興を目指し、一人で奮闘している中小企業経営者は多い。彼らを制度の外だといって見捨てるのは簡単だが、実は地域のブランド産品を生産していたりするのだ。
実力がもともとある企業で、かつやる気のある経営者を発掘し、彼らを支援することで、震災前から衰退していた産業の育成を図る好機となりうる。自治体や地方の金融機関にそういう発想はないものか。
残念ながら、彼らを支援しているのは、民間のボランティア達だったりするのだ。
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