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.経済  投稿日:2014/5/3

<3.11震災被災地リポート>牡蠣養殖業者の挑戦「顔の見えるお付き合い」が、地域のブランディングにつながる


Japan In-Depth編集部

 

「顔の見えるお付き合いを大切にしたい」という牡蠣養殖業者がいる。

養殖業と顔の見える付き合い…?想像がつくだろうか。近所の顔見知りにだけ牡蠣を販売しているという意味でも、一方的に生産地を公開しているという意味でもない。そこには消費者の笑顔のためにいいものを作る生産者と、それを支える消費者がいる。

宮城県の気仙沼市街地からフェリーで25分の気仙沼大島で牡蠣養殖業を営む「ヤマヨ水産」。東日本大震災で養殖施設、作業所、家屋までもが全壊したが、「復興・オーナー制度」という制度を利用して牡蠣養殖を再開した。

牡蠣を購入したい人がオーナーとなり、1口1万円を支払うと、牡蠣が送られる。1期目は牡蠣20個だったが、現在募集中の2期目以降は、むき身500g×3袋が2回送付される。寄付や支援金と違い、あくまでも購入のためのお金であり、この一部が養殖施設の再建などに充てられる。2012年春に募集を開始し、オーナー数は814名(1400口)に上った。

「顔の見えるお付き合い」だからこそ、ヤマヨ水産では品質にこだわり、手間を惜しまない。それが、「耳吊り」という工程だ。まず、殻に穴を開けテグスを通し、数個を束にする。そして、65℃に沸かした海水に牡蠣を浸ける「温湯(おんとう)駆除」を行う。これで殻についた海藻や小さな貝などを殺し、牡蠣だけが栄養を取れるようにする。同時に、牡蠣が身の危険を感じて栄養をため込もうとする性質を利用し身をより大きく、より引き締まったものにする効果もある。その後、再度牡蠣の束を海に戻す。こうすることによって、一つ一つの牡蠣が栄養をたっぷり吸収し、ぷっくりと身が引き締まる。

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また、オーナーと信頼関係を築くために、ホームページやFacebookで牡蠣の生育状況を定期的に報告している。自然災害や放射能の影響による出荷不可能などオーナー制度のリスクもきちんと説明し、放射性物質測定の結果も公開する。

勿論、復興・オーナー制度だけで全ての施設を再建できたわけではない。ヤマヨ水産は近所の同業者を入れても、3経営体以上集まった場合に交付される国の支援制度「グループ化補助金」の規定をクリアできず、申請できなかった。津波に流されなかった設備を再利用し、津波で流された作業場に対し支払われた損害保険金や貯金を合わせても養殖場を再開するにはギリギリだった。

そんな中、民間人の支援グループと知り合うことができた。元金融機関の人、弁護士、司法書士、建築家らから成るボランティアの人たちだ。彼らを通じ、アメリカの生命保険会社のファンドから500万円の援助を受けることができた。

??「捨てたもんじゃないな、と思う反面、もっとこうだったらいいのに…と思うところもありました。とにかく人というものが見えた三年間でした」とヤマヨ水産の小松氏(写真左)は振り返る。制度の柔軟性や、復興のスピード感に不満を感じることは勿論あった。被災の現場を知らない人たちによって、被災者の理想とは違った方向に物事が決められていく場面も目の当たりにした。

しかし一方で、オーナーが作業の手伝いに無償で来てくれたり、民間の支援グループが親身に相談に乗ってくれたり、とにかく行動力のある人たちが沢山いることを知った。 未だ島内の仮設住宅に家族6人暮らし。津波で失ったものは大きかったが、立ち止まっているわけにはいかない。

小松氏は既に先を見据えている。「顔の見えるお付き合い」を少しずつ周りの水産業者にも浸透させ、地域のブランド力を高めるという大きな理想の実現に向けて進み始めている。顔が見えることで生産者の意識が高まり、品質が向上していく。消費者の喜ぶ顔が見たいから、ヤマヨ水産の牡蠣は今日も丁寧に育てられ、ぷっくりと肥えていくのだ。

[追記]ヤマヨ水産の支援には、アメリカの建築専門NPO 、“アーキテクチャー・フォー・ヒューマニティ(1)”の現地オフィス、“まきビズ(2)”(宮城県石巻市)が動いた。“まきビズ”は、被災中小企業の復興を支援するため、資金援助を希望する企業や個人事業主を募集した。このプログラムは、米国プルデンシャル財団(3)の支援金で支えられている。ヤマヨ水産は、“まきビズ”にコンタクトを取り、民間の支援グループも動き、500万円の補助金がおりた。

  1. アーキテクチャー・フォー・ヒューマニティ(Architecture For Humanity):1999年に設立された、人類の危機に際して建築的な解決をはかり、必要とされるコミュニティに設計サービスをもたらす米国の非営利団体。(解説
  2. まきビズ:石巻市中央にある一般社団法人アーキテクチャー・フォー・ヒューマニティ・ジャパンの事務所。
  3. プルデンシャル財団

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