[宮家邦彦]<日中関係にも重要な中央アジア>パキスタンでテロ活動が活発化すれば、中国での破壊活動も拡大[外交・安保カレンダー(2014年6月9-15日)]
宮家邦彦(立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表)
日本ではあまり注目されていないが、6月9日はウクライナがロシアに天然ガス未払い代金22億ドルを支払う期限だ。これまで関係国が交渉を重ねてきたが、公平に見れば、クリミア問題とは異なり、天然ガス問題ではすべてロシアが悪い訳ではない。
以前は千立米当たり268.5ドルだった価格を、最近ロシアのガスプロムが485.5ドルに値上げしようとしたため、ウクライナは怒り狂っている。しかし、そういうウクライナもソ連時代から何度も天然ガスを抜き取っていたのだから、目糞鼻糞というべきだ。
そもそもこの価格紛争、ウクライナでオレンジ革命が起きた翌年の2005年に46.5ドルだったものをロシアのガスプロムが160ドルに値上げしようとして大騒ぎになったのが発端だ。それ以来、両国はほぼ数年おきに価格で揉めてきている。
要するに、クリミアや東部諸州の問題を除けば、ウクライナ側にも相当問題があるということ。重要なことはキエフの新政権に統治能力があるか否かだが、これほど未知数なものはない。筆者がウクライナ情勢を楽観視出来ない理由はここにある。
もう一か国、今週気になるのがパキスタンだ。8日カラチ空港を襲撃したのはTTP(パキスタン・ターリバーン運動)だといわれるが、どうやらパシュトゥーン人だけの「ターリバーン」ではなく、ウズベク人など中央アジア出身の武装活動家もいるらしい。
なぜ中央アジアが気になるのか。それは最近中国国内で一連のテロ事件を起こしているウイグル系の一部が中央アジアやパキスタンなどで訓練を受けたとの見方が強まっているからだ。確かに、最近ウイグル系テロの手口は微妙に変わりつつある。
パキスタンと中国の関係は緊密なはずだが、両国ともこの種のテロリストの動きまでは十分把握できていない。パキスタン国内のテロ活動が活発化すればするほど、中国国内での破壊活動も拡大していく可能性がある。
やはり中央アジアは日中関係にとっても重要であり、今後とも要注意だろう。
今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
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