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.経済  投稿日:2014/6/13

[神津多可思]<リーマン・ショックから5年>成長率を高める世界経済 なぜ米国が正常化の一番手に位置しているのか


神津多可思(リコー経済社会研究所 主席研究員)

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リーマン・ショックから5年以上が過ぎ、IMF(国際通貨基金)は、世界経済全体として、昨年、今年、来年と徐々に成長率を高めていく方向にあると予想している。

もっとも、先進国と新興国とでは様相がちょっと違う。先進国経済は徐々に力強さが増す方向にあるのに対し、新興国経済はそれぞれに構造的な問題に直面し、昨年期待されていたほどには成長率は高まらないようだ。

さらに先進国経済の中でも、マクロ経済の正常化までの距離という観点でみるとばらつきがある。一番正常化に近いのは何と言っても米国だろう。年内の量的金融緩和終了は当然視されおり、それでも金融市場に大きな混乱はない。先週発表された雇用統計も引き続き堅調な数字を示している。

日米欧の中で二番手はどこか。これは判断が非常に難しいが、日本だとも言える。経済浮揚のための積極的な金融緩和の最後の一手は、日本では昨年に打ち出され、その後の経過は周知の通りだ。これに対し欧州では、デフレ回避、企業への十分な信用供与等を目指して、一部のマイナス金利を含む金融緩和パッケージが先週打ち出されたばかりだ。しかも、これで打ち止めというメッセージは中央銀行からは出されていない。

こうした違いはどこから来るのか。日本がバブル崩壊後にどういう経緯をたどったか、欧米には知見があった。どのようなものであれバブルが崩壊した後は、経済が持つ構造的な問題が一挙に表面化し、需給ギャップが大きく開く。そうした状態が続くと、やがてデフレに陥り、それがまた経済のアニマル・スピリットを弱める。そういう悪循環の例を踏まえ、欧米ではリーマン・ショックというバブルの崩壊後、大胆な対応が早急にとられた。そのため、米国は5年余という期間でバブルの後始末から抜け出そうとしている。

これに対し欧州が遅れているのは、米国にない困難な課題に直面しているからだろう。ユーロ圏各国の経済構造に異質性がなおかなり残る中にあって、共通通貨の下で経済統合を進めていくことの難しさが、バブル崩壊の中で改めて浮き彫りになっている。引き続き粘り強い取り組みが続けられているが、極めて難しい課題であることは間違いない。先の欧州議会の選挙結果をみると、統合に飽く民意も拡がっているようだ。そうした事情が、米国に比べてバブルの後始末からの脱却が遅れている一因なのだろう。

日本経済はどうか。日本でバブルの後始末に時間がかかったのは、成長回復の中でできるだけ低コストで後始末をしようという戦略からなかなか抜け出せなかったからと言うことができる。97~98年の銀行危機で、そうした戦略を捨ててからは、やはり5年程度で後始末を終えている。それから日本経済に重くのしかかってきたのは高齢化、人口減少への対応だ。財政赤字にしても、問題の本質は高齢化、人口減少にある。これもまた極めて解決困難な問題であり、正常化に向け先進国二番手という地位も決して確かなものとは言えない。

しかし、日本でも欧州でも、経済が難しい問題を抱えているからという理由で国民の大半が海外に逃げ出すような事態は、国家を運営する側としては決して受容できないし、そもそも現実問題としてそう簡単ではない。民主主義の下で問題の解決を図るには、行政が問題の本質を的確に整理し、政治がそれを理解した上で率直かつ分かりやすく国民に説明し、司法が問題解決の過程で生じる摩擦を公正に裁くという愚直なやり方以外にないだろう。さらに、何にも増して重要なのは、広範な国民がそのプロセスを受け入れるということだ。

今、先進経済の中で米国が正常化に向けた一番手に位置しているのは、いろいろ言われていても、結局、そうした民主主義の基本的機能が、米国において最もバランス良く機能しているからだということになりはしないか。

 

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