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.経済  投稿日:2013/10/22

[安倍宏行]スマート・マンション、スマート・シティ


Japan In-Depth編集長

安倍宏行(ジャーナリスト)

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燃料電池という言葉を目にすることが増えてきた。燃料電池とは水素と酸素を利用した次世代発電システムである(注)その原理が発明されたのは1801年イギリスにおいてだが、実用化第1号は1965年、アメリカのジェミニ計画のジェミニ5号に搭載されたものだ。我が国では1981年に通産省(当時)の肝いりで開発がスタートした。

燃料電池の用途として比較的良く知られているのは燃料電池車であろう。電気自動車(EV)に続く、エコカーとして知られ、1966年にGMが初めて製造して以来、世界中の自動車メーカーが開発にしのぎを削っている。しかし、実際に公道を走るにはまだ2~3年はかかるだろう。

一方で、注目を集めているのは家庭用燃料電池だ。日本では2009年に世界初の看板を引っ提げ華々しくデビューした。それが、家庭用燃料電池コージェネレーションシステム「エネファーム(ENE・FARM)」だ。都市ガスから水素を作り、発電時に発生する熱でお湯を沸かし、給湯や暖房に利用する。

しかし、12年度までに4万台、と普及はそれほど進んでいない。理由は明快、ズバリ金額である。現在1台当たり上限45円の補助金が出ているが、それでも100万~150万円する。節約できる光熱費は年間数万円と言われているから、耐用年数の10年では回収できない。この採算性では消費者も購入に二の足を踏むだろう。

そうした中、21日東京ガスとパナソニックはマンション向け家庭用燃料電池システムを発表した。ドア脇の狭いスペースに収まるようにし、耐震性も高めたという。既に都内の新築マンションに標準装備される事が決まっている。発電するマンション、と銘打てば商品性はアップするだろう。

もっとも停電時には燃料電池も停止するが、既にバックアップ用蓄電池を標準装備したマンションも発売されているので、組み合わせれば震災時も安心だ。又、屋上の太陽光パネルで発電し、それを地下駐車場に送電、非接触充電を使い、EVに駐車場の路面から充電、カーシェアする、なんてマンションも出てきそうだ。

一方で、スマート・シティの開発も進む。パナソニックを中心とする12社と神奈川県藤沢市は、辻堂元町の約19万m2の空き地を利用した開発プロジェクト「Fujisawaサスティナブル・スマートタウン(Fujisawa SST)」を進行中だ。約600億円を投じ、2018年度に完成するという。完成すると、戸建住宅約600戸と集合住宅約400戸、商業施設など総合的な街づくりのビッグプロジェクトで、2014年3月には合計100戸が完成予定だ。全戸に太陽光発電システムと蓄電池、さらにエネファームも設置する。

非常時にも電気は供給されるし、街全体のエネルギー消費を見える化して、省エネも図る。スマート家電、スマート・メーターなども急速に普及していくだろう。

筆者はこうしたスマート・マンション、スマート・シティこそ、東北の被災地に建設したらよい、と主張してきた。実際は市街地化計画そのものが利害調整の難しさで進まず、その実現は容易ではない。しかし、過疎化、高齢化などで必ずしも住みやすいとは言えない街を、今後どう効率よい街に作り変えて行くのか、基礎自治体は真剣に考えてもらいたい。「街のスマート化」は避けては通れない道である。

 

(注)水の電気分解と逆の原理で発電を行うシステム。電気分解は水に電気を流すと水素と酸素を発生させるが、 燃料電池はその逆の原理を活かし、水素と酸素を利用して電気を作り出す。

(参考資料)

 

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