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.政治  投稿日:2014/10/3

[福嶋浩彦]【深刻化する公共施設の老朽化】~逆転の発想、市民の為に 施設を減らす視点~「福島浩彦の新地方自治論」


 
福嶋浩彦 (中央学院大学社会 システム研究所教授。東京財団上席研究員。元消費者庁長官。前千葉県我孫子市市長)

全国で、公共施設やインフラの老朽化がクローズアップされている。高度成長期に集中的に整備されたものが、2020年以降、一斉に更新の時期を迎えるが、更新の必要額と投資できる財源を推計してみれば、全ての施設を更新するのは無理であることが分かる。

 

  • 40%しか更新できない

今年6月、全国初の「公共施設再生基本条例」を制定した千葉県習志野市の推計では、市内にある現在の公共施設を順番にすべて建て替えていくと25年間で965億円、毎年38億円が必要になる。これに対して過去5年間、公共施設に投資した額の平均は約15億円で、この水準を維持したとして、延べ床面積で現在の公共施設の40%程度しか更新できない。

そこで同市では、公共施設の複合化を進め、施設(建物)は削減しながら機能はできる限り維持していくことを打ち出した。同時に、建物の長寿命化や運営面での質の向上を目指している。

現在、全国のほとんどの自治体が同じ問題に直面している。どの自治体も、公共施設建設のピーク時に比べると、予算の重点は、介護や子育て支援などに完全に移っている。公共施設の更新があるからといって、これらを元に戻すのは不可能だ。

なお、アベノミクスによって現時点では公共投資が増大している。しかし、これは一時的な経済対策で、長期にわたる公共施設の更新という構造的な問題が解決できるわけではない。将来において既存の公共施設を再生する展望のないまま、いま財源があるからといって公共施設をまた増やすのは、きわめて愚かな選択だろう。

 

  • 発想を転換して再生を

思い切って発想を転換して、公共施設を再生する必要がある。私が千葉県我孫子市長を務めたとき、我孫子市には温水プールが無いが隣接する茨城県取手市にはあった。逆に我孫子市に有るナイター施設付きの野球場とテニスコートが取手市に無かった。そこで両市で条例を改正し、両市民とも利用条件を同じにして、相互に自分の市の施設として使えるようにした。当時は苦肉の策であったが、これからは当たり前の取組みにしなければならない。

今まで行政も市民も、隣の自治体にある施設は自分の自治体にも欲しいと考えてきた。これからは、隣の自治体にあるものは自分の自治体には必要ない、一緒に使えばよい、という発想の転換が求められる。

習志野市のように積極的な複合化も不可欠だ。とくに、地域コミュニティの中心にある学校を徹底した複合施設として捉えなおすことが重要だ。学校施設の地域開放というレベルではなく、学校は「地域住民の施設」、ただし地域の中で子どもが一番大事、というぐらいの発想が必要だ。

民間への移行も必然だ。例えば、住宅の絶対数が不足していた時代は、住宅確保が困難な人へ公営住宅を整備して提供する必要性があった。しかし現在では、民間の賃貸住宅を借りて提供したり家賃補助したりすれば目的は達成できる。老朽化したから建て替えるという発想はやめたほうが良い。

これらは、単にお金が無いから公共施設を減らすというのではない。人口が減る中で公共施設をより良く再生して、地域の質を高める。つまり市民みんなの幸せのために公共施設を減らす、という視点が何より重要だと考える。

 

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福島浩彦
1956年鳥取県生まれ。83年我孫子市議会議員。95年38歳で我孫子市長に当選、2007年1月までの連続3期12年務める。この間、全国青年市長 会会長、福祉自治体ユニット代表幹事などを歴任。市民自治を理念とした自治体経営に取り組んだ。2010年消費者庁長官に任命され2012年8月まで務める。中央学院大学社会 システム研究所教授、東京財団上席研究員。

著書

『市民自治の可能性~NPOと行政 我孫子市の試み~』 (ぎょうせい・2005年)、『公開会計改革~ディスク ロージャーが「見える行政」をつくる』(共著、日本経済新聞社版・2008年)、『市民自治』(ディスカヴァー 携書・2014年)。

 

 

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