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.政治  投稿日:2014/9/2

[福嶋浩彦]【自治は徹底して市民から出発する】~対話力高めてまちづくりを~


自治は徹底して市民から出発するものだ。国の権力者やエリート官僚が決めた方向へ国民を誘導するのではなく、私はこれをやりたい、こう生きたい、こんなまちにしたい、という市民一人一人の「想い」から出発する。

そして当然、「想い」は一人一人みんな異なるので、あらゆる人たちの対話によって合意をつくり出し、まちづくりの方向と具体的な政策を決めていく。まちづくりに正解など決してない。私たちの外にある正解を見つけるのではなく、私たちが対話によって合意をつくるのである。

もし自治体が、国の打ち出す政策を地域に合うようアレンジして実行していく役割しか果たさないならば、自治体はいらない。国の支所があればよい。国の支所でもアレンジぐらいはできる。自治体は徹底して市民と向き合い、国家からではなく生活者である市民から出発する社会を創るためにある。

●市民による自治体意思の決定

地方自治の土台は、大事なことはいざとなったら「市民自身が決める」という直接民主制だ。国政と異なり、市民は住民投票によって首長や議員をリコールできるし、議会を解散させることもできる。法定合併協議会の設置では、一定の要件の下、議会の議決よりも住民投票の結果が優先する。市民が条例案を自ら作り、有権者の50分の1の連署で首長を通し議会に提案できる。重要な政策に対する常設型の住民投票条例を制定している自治体もある。

条例による住民投票は、リコールや法定合併協議会設置のような直接決定ではないが、首長や議会による決定の内容を縛り、主権者市民が行政の意思を是正する重要な道具となる。従って、一定数の市民から請求があれば必ず住民投票を行う常設型の制度にして、実施の決定権を市民が持つことが大切である。

●間接民主制への参加

自治の土台は直接民主制だが、もちろん日常的には選挙で選ばれた首長と議会が意思決定をして、自治体を運営する。このとき首長(行政)や議会は、多様な市民と対話し、議論した上で決めることが大切になる。これが市民参加だ。

時には少数の反対意見が前面に出て、首長や議会とぶつかることもあるが、それによって少数意見を大事にすることにもなるし、説明責任が厳しく求められる。少数意見とぶつかる中で鍛えられ、首長や議会は市民全体の利益の上に立つことができる。

●市民の対話力を高める

直接決定にしても参加にしても、市民の対話力を高める必要がある。住民投票は、市民の中で十分な議論を行ったうえで、最後は多数決で決めることを皆が納得して投票を行ってこそ民主主義が深まる。逆に、単に多数決によって決着をつける住民投票は、数で勝てそうな側が自分の主張を通すだけの政治的手段になりかねない。

市民参加も、違う意見や利害を持つ市民同士がきちんと対話をして、自分たちで合意をつくり出す力が大事になる。どんなに市民参加を進めても、参加した先で首長や議会に対し、市民がそれぞれ自分の要求をしているだけなら、永遠に陳情政治のままだ。市民が対話によって自分たちで合意をつくり出してこそ、その合意で自治体を動かせる。

自治体の行政は、そういう市民の対話をコーディネートする力を持たねばならないが、この力も決定的に不足している。対話の力もコーディネートする力も、机上の研修では身につかない。実際のまちづくりの中でいっぱい失敗をし、いっぱい混乱をし、いろんな試行錯誤をしながら、実践の中で身に付けていくしかないだろう。

 

 

福島浩彦
1956年鳥取県生まれ。83年我孫子市議会議員。95年38歳で我孫子市長に当選、2007年1月までの連続3期12年務める。この間、全国青年市長 会会長、福祉自治体ユニット代表幹事などを歴任。市民自治を理念とした自治体経営に取り組んだ。2010年消費者庁長官に任命され2012年8月まで務める。中央学院大学社会 システム研究所教授、東京財団上席研究員。前千葉県我孫子市市長。

著書

『市民自治の可能性~NPOと行政 我孫子市の試み~』 (ぎょうせい・2005年)、『公開会計改革~ディスク ロージャーが「見える行政」をつくる』(共著、日本経済新聞社版・2008年)、『市民自治』(ディスカヴァー 携書・2014年)。

 

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