[東芽以子]【内憂外患、ペルー景気に陰り】~鉱山開発のみに頼る産業構造の脆さ露呈~
東芽以子(フリーライター・元テレビ局報道記者)「東芽以子の地球の裏リポ」
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色褪せた看板と、人気のないショールーム。マンションの建設計画が頓挫したらしく、付近の住民によれば、半年ほど前にショールームが閉鎖されたまま、現在に至るという。
ここスルコは、リマ中心部から車で30分ほどの新興住宅街だ。10年間で約3倍に跳ね上がった地価は、今年8月時点で1781米ドル/㎡(約19万2800円/㎡ ※ 為替は2014年10月7日時点)。日本の市町村と比べると、鎌倉市の平均住宅価格19万2600円/㎡と並ぶ価格で、リマ市民の間では、いわゆる”住宅バブルの象徴”として認知されている。
ところが、ここ数ヶ月、真新しいマンション群の至る所に「se vende」=「売り出し中」の文字が目立つようになり、景気の陰りが見てとれるようになった。今、ペルー経済に何が起こっているのか。
<写真左:閉鎖されたマンション販売ショールーム/右:売りに出されたマンション>
ペルーはチリ、中国に次ぐ、世界第三位の銅生産国だ。輸出高の約6割が鉱物資源という産業構造で、これまでの資源高を背景に南米でも屈指の経済成長を遂げてきた。過去10年間のGDP成長率は平均約6%を誇ったが、昨年、中国の鉱物資源輸入量が減少したことで国際価格が下落し、勢いは鈍化。
今年1月から7月までの鉱物資源の輸出額は約104億米ドルで、昨年の同時期と比べて2割ほど減少している。そのため、今年6月のGDP成長率は0.3%と、リーマン・ショックの影響による2009年10月の最低値1.2%を下回る数値を記録することとなった。
経済低迷の要因は、国内にもある。ペルーの鉱山開発プロジェクトは、現在、新規だけでも50件を超え、国内外からの投資総額は6兆円以上と巨大である。しかし、今月6日、地元経済誌Gestion は、環境破壊を訴える地元住民の反対が根強いことなどといった「環境的かつ、社会的な影響から、昨年、12の新規鉱山開発プロジェクトが遅延した。これによる損失は約240億米ドルに上る見込み。」と報じた。ペルーの一大産業は、国際的な需要減のみならず、鉱山開発遅延といった国内要因も抱えているのである。
この危機に対応すべく、政府は先月、経済財務大臣を交代させた。新大臣は、現在遅延している鉱山開発プロジェクトの内、技術的なトラブルが原因である大型プロジェクトの再開を来年以降見込んでいるほか、新規プロジェクトの円滑な推進に尽力するとして、経済は再び回復、安定すると主張する。
先行き不透明な経済情勢は、実体経済へどう影響するのか。エコノミストのラウール・ディアス氏によれば、現在の新興住宅街の有様は、投資目的の富裕層が買い控えしている結果で、今のところ、国内の雇用や消費に大きな影響は出ていないという。しかし、直接的な原因を作った鉱山業界では雇用情勢が悪化する可能性がある、との見方を示した。
「投資額が巨大なため、開発プロジェクトから手を引けない鉱山会社は、自社の労働者ではなく、第三者に委託するインフラ関係の雇用から削減するのが常。今のところ、大量解雇の情報はないが、労働者の間では漠然とした不安感が漂っている。」(ディアス氏)
鉱山開発のみに頼る産業構造がいかに脆いかが露呈し、先行き不透明感に包まれるペルー経済。今後、どのような軌道を描くのか、全貌が見えるのは、もう少し先になりそうだ。
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