無料会員募集中
.国際  投稿日:2014/12/22

[古森義久]【金正恩暗殺を題材にした映画、モデルあった!】~タリバンによる反対勢力幹部暗殺事件~


古森義久(ジャーナリスト/国際教養大学 客員教授)

「古森義久の内外透視」

執筆記事プロフィールBlog

 

ソニー・ピクチャーズ・エンターテインメント(SPE)へのサイバー攻撃事件はアメリカ政府がその犯人を北朝鮮機関だと断定したことで新たな局面を迎えた。またSPE側が問題映画『ジ・インタビュー』のアメリカ国内での上映を自粛したことへの非難もすっかり広まった。

この映画の核心はコメディ風の金正恩第一書記暗殺のプロット(構想)だった。ジャーナリストが金書記のインタビューをするふりをして殺そうとするという設定である。アメリカの中央情報局(CIA)がその暗殺計画を画策するのだともいう。

しかしこの映画をめぐる話題が文字通り全世界に広まっても、この「インタビューのふりをしての暗殺」というプロットが現実に起きた事件をモデルにしていることは、あまり報じられないようだ。このプロットとそっくりの事件が実は現実にあったのである。

アメリカ中枢同時テロ事件の直前の2001年9月9日、舞台はアフガニスタンの北部のタカール州、この地の渓谷に拠点をおく反タリバン派「北部同盟」の戦士アフマド・シャー・マスード司令官が殺されたのだ。ベルギーのテレビ局の記者だと称する二人の男がマスード司令官にインタビューして、ビデオカメラを回し始めたところで、そのカメラにしかけてあった爆弾と男のうちの一人の腰に巻いた爆弾とが炸裂し、

男二人は自爆の形で即死した。だが爆発はマスード氏をも傷つけ、重傷を負って病院に収容されてすぐ、同氏も死んだのだった。

マスードといえば、アフガニスタンでは有名なムジャヒディン(イスラム戦士)のリーダーだった。勇猛で聡明とされ、カリスマ的指導者としての評判が高かった。ソ連のアフガン侵攻時代は反ソ連闘争で戦果をあげた。同じイスラム教でも原理主義には反対し、1996年のタリバン政権登場後は原理主義のタリバン軍と戦った。マスード司令官はタリバンを利用してアフガニスタン領内で訓練を続けた国際テロ組織のアルカーイダをも敵とした。

そのアルカーイダがマスード暗殺の2日後にアメリカで世界貿易センターなどへの9・11自爆テロを実行したのだった。後にマスード氏暗殺はアルカーイダが画策したことが判明した。9・11テロの後、アメリカがアフガニスタンのタリバン政権に攻撃をかけることを予測し、そのタリバンに反対する勢力の最高指導者のマスード氏の抹殺を決めたのだった。反タリバン勢力の復権を妨害しようという意図だった。

報道陣の取材インタビューを装っての政治リーダーの暗殺――こうしたテロの手口は実は13年前にアフガニスタンで実行されていたのである。その手口を今回の映画は明らかに借用していた。そのプロットが北朝鮮の怒りをかい、サイバー攻撃を招き、映画の上映中止という言論の弾圧にまでつながったというわけである。

 

【あわせて読みたい】

[朴斗鎮]【北朝鮮、韓国内の合法的拠点失う】~憲法裁判所、統合進歩党に解散宣告~

[岩田太郎]【金正恩暗殺映画上映中止、米で大激論】~日本批判映画には冷静な対応を~

[古森義久]【北朝鮮関与か?ソニーへのサイバー攻撃】~ソニー関係者の関与疑惑も浮上~

[古森義久]<中国の6分の1を占めるウイグル>中国当局のウイグル民族弾圧はテロの危険を高める

タグ古森義久

copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."