[遠藤功治]【ライバルにシェア奪われるタカタ】 ~タカタ製エアバッグリコール問題 その3~
遠藤功治(アドバンストリサーチジャパン マネージングディレクター)
「遠藤功治のオートモーティブ・フォーカス」
3.代替部品の生産能力が足りない。
2,000万台にも上るリコールに対して、そのエアバッグなり、インフレーターなりの交換が必要となる訳ですが、現在のタカタの生産能力からすると、リコールの完了まで2年以上かかると言われています。当然のこととして、そのような長期な時間をリコールに掛けられる訳もありません。
タカタはエアバッグでは世界シェア約20%で第3位メーカーです。1位はスウェーデンのAutoliv、2位は米国のTRW。ホンダは世界生産台数の約半数にタカタ製エアバッグを搭載しています。そのホンダが、Autolivにインフレーターの増産を打診し、Autolivも6カ月後をメドに、ホンダに納入を始めるとのことです。
インフレーター増産には、Autolivのみならず、ダイセルにも緊急増産を打診、こちらも約半年後からホンダへの納入開始となる予定です。リコール対応の代替部品を、競争相手に作ってもらう、前代未聞の話しです。それでも、出荷までにはあと半年かかるのです。
エアバッグはエアバッグ、インフレーターはインフレーター、タカタがダメなら他から買えばいい、というほど簡単な話ではありません。エアバッグないしはインフレーターは、それが搭載される車種の形状などで衝撃の波形が変わりますから、どんなインフレーターでもいい訳ではありません。その車種用のオーダーメイドであることは当然です。
また、その増産対応も、設計からのやり直し、いくらタカタから設計図が供給されるといっても、生産ラインでは金型等から立ち上げ、各下請け部品メーカーからの調達や品質チェック、ないしは製造ラインに必要な機械の確保など、相当なる時間がかかります。正直、よく半年で対応可能だと思います。
勿論今回は緊急増産ということで、通常取引とは違いますから、Autolivにしろダイセルにしろ、ホンダからの納入単価等、交渉条件はプラスです。ここに罹る費用等も、最終的には自動車メーカーないしはタカタに請求されるのでしょう。
また、緊急増産対応が終了した段階で、この増産設備を遊ばせておくことは出来ない訳で、この増産設備で作るエアバッグないしはインフレーターは、後々、ホンダが新規車種の立ち上げ等で、一定の量を買う可能性が高い、即ち、タカタはホンダへのシェアを失う訳です。また、自分たちの設計図を渡すということは、技術・コストの手の内を、相手側に晒すということですから、将来の競争原理上、圧倒的に不利になる話しではあります。
今回の件で、ホンダはタカタからのエアバッグ購入を止めることはないにしても(これは少なくともこの先5-10年間では無理な話です)、将来の車種向けに於いて、タカタのシェアが次第に低下していくと考えるのは自然でしょう。
ただ、自動車メーカーが部品の調達先を決める際にKEYとなる要素は、品質・値段・納期・生産能力に加え、その開発能力が非常に重要です。1980年代からホンダはタカタからエアバッグの供給を受けています。シェアは低下するかもしれませんが、ホンダにとってタカタは引き続き、重要な調達先であることには変わりはありません。
(その4、その5に続きます)
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