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.経済  投稿日:2014/11/30

[遠藤功治]【分析:円安と自動車産業の関係】その1~下請けの賃金上昇に繋がるのか?~


遠藤功治(アドバンストリサーチジャパン マネージングディレクター)

「遠藤功治のオートモーティブ・フォーカス」

執筆記事プロフィール

自動車大手各社の中間決算が出揃いました。トヨタ・ホンダ・日産・マツダ・三菱自・スズキ・富士重・の大手7社合計営業利益は、2兆4,190億円と前年同期比10%増加、これは過去最高益となります。各社の通期計画でも、営業利益計画の合計では4兆7,200億円となり、前年度比8.2%増と、こちらも過去最高益を更新する予定です。しかも、各社の業績予想は、下期の為替レートを対ドル105円、対ユーロを135円としているところが多く、足元の実勢レートよりも円高の設定となっています。企業が公に業績予想を建てる場合、その前提マクロ要因を保守的に設定することは当然のことですが、流石に現在の為替水準は対ドルで118円ほど、対ユーロでは146円ほどと、前提レートに比較すれば、大幅な円安で推移しています。

よく巷では、良い円安と悪い円安が話題として上がります。円安によって潤う企業がある一方で、円安による倒産も中小を中心に増えているとの指摘があります。日本政府・日本銀行・経団連辺りでは、現状の円安水準は総じて日本の経済にはプラスとなっている、というのが共通認識です。業界で言うと、その典型が自動車産業ということになります。

<表1:日系大手自動車メーカー各社の今期収益と為替感応度>
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上記大手7社の為替感応度を見ると、対ドル1円の違いが、7社合計で営業利益を749億円押し上げる計算になります。つまり、今期の営業利益計画を、下期対ドル105円ではなく、実勢レートにより近い、対ドル118円で計算し直すと、7社合計の営業利益は計算上、約5兆2,000億円となり、公式に各社が発表している利益水準から、約5,000億円、率にして約10%、更に押し上がる計算となります。過去最高益の水準が更にバブルのように膨張することとなります。

自動車産業は典型的なピラミッド構造であり、三角形の頂点に大手自動車メーカーが存在します。自動車は約3万点とも言える部品で構成されますが、その約75%は自動車部品や素材メーカーからの調達品です。即ち、トヨタのクラウンも、ホンダのアコードも、スズキのハスラ―も、その構成部品の約4分の3は、トヨタやホンダやスズキで生産される訳ではなく、外部の調達先から買ってくる購入品ということになります。

結果、三角形ピラミッド構造頂点の自動車メーカーのすぐ下に、1次下請け部品・素材メーカーが並び、その多くが東証1部上場の大企業群となります。デンソー然り、ブリジストン然り、新日鉄住金然り、パナソニック然り、また今話題になっているタカタのども1部上場の1次下請け部品メーカーです。そのまた下には、更に2次部品メーカー、そのまた下には、3次、4次、5次と、下請けメーカーが連なることとなります。

一般論として言えば、頂点が円安によって潤えば、その下も潤うこととなります。6カ月ごとに、トヨタは下請け部品メーカーに1%から3%程度の値引き要求を行いますが、この下期は実施しないそうです。円安効果の還元と言う訳です。トヨタから1次下請けに対し、値引き要求をしないということは、1次下請けも2次下請けに値引き要求をしないということ、これにより増加するであろう下請けへの値引き緩和が、比較的難しいと言われる下請け企業での賃金上昇に繋がれば、というのが表面上のお題目のようですが、実際この通りに行くのかは甚だ疑問です。

(その2に続く)

 

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