無料会員募集中
.社会  投稿日:2015/1/11

[是枝久美子]【最新スパイ映画は複雑な国際政治を反映】~郷愁と現代の世界観を両立させる試み~


トップ画像/(C)2014 No Spies,LLC.All.Rights Reserved

是枝久美子(映画評論家)

「是枝久美子のレコメン堂」

執筆記事プロフィール

映画:スパイ・レジェンド

~Story~

華々しい活躍をしていた元CIAスパイ、ピーター・デヴェロー(ピアーズ・ブロスナン)は、隠遁生活をしていたある日、ロシアの殺し屋によってかつての同僚たちが次々に殺害されていることを知る。モスクワへ向かったデヴェローは、ロシア大統領選のスキャンダルを追うかつての恋人を救うため、CIAとともに救出作戦を展開するが、彼女は「ミラ・フィリポア」という女の名前を言い遺して息を引き取った。実行犯はデヴェローが育てた現役CIAのメイソン(ルーク・ブレイシー)。汚職まみれのロシア大統領選とCIAとの真相を探るべく、ミアとの接触を試みる……。

***********************************

今年は戦後70年の節目の年。その間、秩序と思ってきたものは変容し、日本だけでなく世界中の国々も新しい局面を迎えている。それは世情を反映するスパイ映画の世界も同様で、ゴルバジョフらが国際政治の表舞台に君臨していた時代のダイナミズムや単純さが影を潜め、複雑で難解な構成が主流になりつつある。

007シリーズを別にし、筆者の印象に残っている“スパイ”映画といえば、ソ連を崩壊へ導いたKGBの大物幹部を描いた『フェアウェル~さらば哀しみのスパイ』(エミール・クストリッツァ主演・2009年公開)や、20年間スパイ活動をしていたとされる元FBI捜査官を描いた『アメリカを売った男』(クリス・クーパー主演・2007年公開)など、実在のスパイの人生を重厚なタッチで描いたヒューマン系で、どちらも切なく、物悲しい。

しかし華やかな娯楽スパイ映画の再構築を目指し、郷愁と現代的世界観の両立という難問に取り組んでいる脚本家たちも健在だ。『スパイ・レジェンド(原題:NOVENBER MAN)』はマイケル・フィンチとカール・ガイダシェクによる共同脚本で、彼らは小説に描かれた冷戦時代を背景に、リアルな国際情勢を盛り込むという構想に5年も向き合ってきた。現代に合わせるため、設定に様々な工夫を凝らし、「いつの時代も、世界は機密事項に満ち、陰謀の画策を目論む権力者によって支配されている」という原作の教示を伝えている。

リアリティの追求は、俳優たちのモチベーションも向上させ、ブロスナンは架空のスパイから、実社会で働く現代のスパイという新たなハマリ役を獲得した。かつて世界中を魅了したボンドが13年ぶりに再び挑むスパイ役。続編の制作も決定済み。大入り叶。

 

1月17日(土)角川シネマ有楽町、ユナイテッド・シネマ豊洲ほか全国ロードショー

配給:KADOKAWA

2014年/アメリカ/108分/カラー/スコープサイズ/5.1ch

映画『スパイ・レジェンド』公式サイト http://spylegend.jp/

 

【あわせて読みたい】

[是枝久美子]【映画:はじまりのうた】~メジャーとインディーズの境界線はなくせるのか~

[岩田太郎]【「反日」映画『アンブロークン』を斬る 1】~非現実的な描写、ガラ空きの劇場~

[岩田太郎]【「反日」映画『アンブロークン』を斬る 2】~機能しない米社会のヒーロー願望~

[古森義久]【金正恩暗殺を題材にした映画、モデルあった!】~タリバンによる反対勢力幹部暗殺事件~


copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."