なぜ東京電力の法的整理が最善ではないのか?〜事故収束を困難にするだけの「東京電力法的整理論」の乱暴
澤昭裕(国際環境経済研究所所長)
10月最終週に「朝まで生テレビ」に出た。東電の法的整理論に話が及び、出演者の方々のほとんどが法的整理に賛成で、私一人が消極的意見を述べ、周りから集中砲火を浴びた。なぜ現時点での法的整理が最善ではなく、次善未満の策にしかならないのだろうか。
まず、東京電力の法的整理に踏み切れば、福島第1原発事故の損害賠償に支障が生じたり、廃炉作業を行っている事業者への支払いが滞ったりして、事故収束が困難になることだ。さらに、東京電力には、既に国が1兆円の税金を投入しており、法的整理よってそれを無に帰することはできないだろう。むしろ事態を混乱させるだけであり、当面は東電の再生を目指すべきだ。
東電は国の支援を受け、損害賠償や除染などすべての事故処理費用を負担する。国から借りた資金は、今後の収益をもとに返済することになっているが、返済が合理的な期間内に完了する見込みを立て、社債市場に復帰して電力の安定供給のための前向きな設備投資を行う体力を回復することが東電の再生には不可欠だ。それには、損害賠償や除染、廃炉費用などの債務を対処可能な範囲に収束させる必要がある。
損害賠償も期限を区切って決着させ、東電の賠償総額にめどがつくよう早期に債務を確定する必要がある。ただし、原子力損害賠償法による東電から個人への金銭補償だけでは、コミュニティの再生にはつながらない。現在政府で検討している追加賠償で移住のための住宅確保が可能となるが、一方で、帰還者も生活再建の心配なく元の地域に戻れるよう、雇用の場の確保やインフラの整備など、東電の賠償では不可能な事業に対して、国も大規模な復興予算を措置すべきだ。
特に除染に関して言えば、合理的・効果的に作業を進めるには、どういう基準で、どこを優先してやるかという計画をしっかりと立て、その後の地域再生のための振興策も含めて総合的な対応を考えるべきだ。そのための費用については、東電のみならず国も負担し、現況を性格に把握している地元が、放射線の健康影響に関する国際的・科学的な知見を十分踏まえ、現場の線量水準に応じて、ベストだと考える選択肢を認めるようにすべきだ。
廃炉に関わる事業を東電から分割して集中的に進めるべきといった組織形態の議論があるが、その前に事故収束のための作業の優先順位を定め、作業を効率的かつ迅速に進めることが先だ。汚染水の末端対策ではなく、燃料デブリ(溶けた炉心の堆積物)など汚染の「もと」を除去するための作業が可能となるような環境整備が最優先課題である。
そのためには、汚染水を環境に影響を及ぼさない程度まで希釈できたら海に流すといったことを決め、より優先される作業に経営資源を振り向ける必要がある。当事者ではこうした方針を決めることは難しく、国が政治的決断を積み重ねるしかない。
今の枠組みがベストとは言わないが、次善の策として受け止め、この仕組みに沿って出口を探す努力をぎりぎりまで行うべきではないか。
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【プロフィール】
澤 昭裕(さわ・あきひろ)21世紀政策研究所研究主幹、NPO法人国際環境経済研究所所長
1957年大阪府生まれ。1981年一橋大学経済学部卒業、通商産業省入省。1987年行政学修士(プリンストン大学)。2004年8月~2008年7月東京大学先端科学技術研究センター教授。
2007年5月より21世紀政策研究所研究主幹。
2011年4月より国際環境経済研究所所長。