［是枝久美子］【失われる新宿・歌舞伎町の地域性】～ヘイトスピーチを映画に描き込む試み～
トップ画像／(C)2014『さよなら歌舞伎町』製作委員会
是枝久美子（映画評論家）
「是枝久美子のレコメン堂」
～Story～
徹（染谷将太）は周囲には一流ホテルマンということにしてあるが、現実は歌舞伎町のラブホテルの店長。ミュージシャンを目指す沙耶（前田敦子）と同棲中だが最近はマンネリ気味だ。今日も勤務先でありふれた一日を過ごすはずの徹だったが、次から次へと思いがけない事態が発生し……。歌舞伎町のラブホテルに集う5組の訳ありカップルが繰り広げる、ある一日の物語。
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実在の街を実景としている作品を観るたび、その街を漫ろ歩いてみたくなる。『やわらかい生活』（寺島しのぶ主演／2005年公開）のときは蒲田のタイヤ公園を訪れ、『男はソレを我慢できない』（竹中直人主演／2006年公開）のときは再開発が迫りつつあった下北沢北口食品市場を逍遥し、『RIVER』(蓮佛美沙子主演／2012年公開）では秋葉原の万世橋に佇み、作品の世界観に思いを馳せることができた。
しかし地域の特徴が薄れつつある昨今は景観撮影だけでは臨場感が伝わってこない。長らく歌舞伎町をシンボライズしてきたコマ劇場は老朽化で失われ、噴水広場からは噴水が池ごと消えてしまった。雑居ビルの居並ぶ繁華街は、他のそれと変わらないように見えるし、ラブホテル街となるとさらにわかりにくい。
それでも廣木隆一監督は新宿での撮影にこだわり、新宿の今を強く印象付ける事象のひとつとして、作品中にヘイトスピーチを描き込もうと試みた。もともと申請がとおりにくいことで知られる新宿界隈の道路使用許可である。申請当初、警察は新大久保で行なわれるヘイトスピーチの描写に難色を示した。されどこのシーンを割愛したら、新宿の街にこだわった意味が半減してしまう。
そこで、廣木監督の歴代スタッフは、エキストラとして早朝の新大久保に集結し、人でごった返す往来の様子を猛ダッシュで再現。ヘイトスピーチのシーン撮影を成功させた。そのほかにも、ライブ感と臨場感に満ちた数々のシーンが東日本大震災の被災者、外国人労働者、刑事事件の時効……など、我々を取り巻く様々な問題を浮き彫りにしている。出演者全員が主役のように印象深い、爽やかなＲ15の群像劇。
染谷将太 前田敦子 イ・ウンウ ロイ（5tion） 桶井明日香 我妻三輪子 忍成修吾/大森南朋
田口トモロヲ 村上淳 河井青葉 宮崎吐夢 松重豊 南果歩
監督：廣木隆一 脚本：荒井晴彦 中野太
1月24日（土）より全国ロードショー 配給：東京テアトル
映画『さよなら歌舞伎町』公式サイト http://www.sayonara-kabukicho.com/
2014年／ビスタ／5.1ch／135分 Ｒ15
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