[大野元裕]【イスラム国、日本を米仏と同じく標的に】~日本は中東に何を発信すべきか~
大野元裕(参議院議員)
20日付けの報道によれば、イスラーム国(IS)を名乗る勢力がユーチューブ上に投稿をし、シリアで拘束されたとみられる二人の日本人を前に、72時間の期限を設けて、身代金を要求した。かかる卑劣な行為は強く非難されるべきであるが、早急な問題の解決が望まれるところである。
ユーチューブでは、まず中東訪問に際しての安倍総理の発言がNHK国際放送を引用する形で報道され、その後、安倍総理に対するメッセージとして、8500kmも離れた遠方から対IS戦線に日本が参加する意思を示し、イスラーム世界を破壊して子どもや女性を殺害することに荷担し、ISの拡大を止めるために2億ドルの供与を表明したと非難した上で、身代金を要求した。IS側の理解は一方的だが、重要なことは、日本をイスラームの敵と位置づける彼らなりの論理を発信したことにある。
これによって、ISのみならず、おそらくテロリストにとり日本は、米仏と同列に置かれることとなってしまった。今回の人質事件は、この意味で極めて大きな転換点となる恐れがある。これまでは、中東における日本に対するイメージは極めて良好で、米国等とは異なるという主張ができたが、すでにパンドラの箱は開かれてしまったのかもしれない。
この事件を受けて管官房長官はテロには屈しないと述べたが、日本がこのように位置づけられた以上、相手の要求を呑む、あるいは突っぱねるといういずれの選択を行っても、今回の人質事件のみならず、今後に禍根を残すことになってしまった。
日本外交という観点から考えても、今回の中東訪問の意義には疑問が残る。エネルギー供給の確保等の喫緊の必要性があるわけでもないのに、総理は中東訪問を決断し、阪神淡路大震災20周年の式典を欠席してまで外遊に踏み切った。
今回の訪問先は、ISの影響を大きく受ける地域で、且つフランスにおけるテロ事件直後でテロに対し世界的な注目を集める中、イスラエルも訪問し、反テロの立場の発言を繰り返さざるをない立場に自らをおいた。総理は、「ISと戦う周辺諸国に総額で2億ドル程度を支援することをお約束します」と述べることとなった。それは、これまでの不安定の影響を受ける難民支援に〇〇億ドル、復興と安定に〇〇億ドル、といった発言にとどまらない、アグレッシブで踏み込んだものであった。
極めて責任の重い総理が外遊をし、発言を行う以上、そのメリットとリスクを考えるのは当然のことである。日本が独自にISに物理的に対処し、リスクに対応する手段が限定的であるならば、その分、リスクを慎重に考えるべきであり、中東訪問を強行した総理の外交的なセンスと指導者としての責任が問われるところである。
しかし、このような政治的な責任論以前に、まずは現下の状況にいかに対応するかが重要である。官邸が各国とも連絡を取り、情報収集に努めるだけでは足りない。人質になったお二人はかつて一緒にイラク等に行かれたことがあり、彼らには共通の現地のコネクションがあり、今回もそれに頼ったのではなかったか。
これらをカギとして、ISと接触をする等の方法もあり得るだろう。そして何よりも、これを契機として日本人が米仏と同列に扱われ、各地で標的になることがないよう、イスラーム世界に対する日本の平和的立場や人道的な支援の状況等についての発信を強めていくことが極めて重要ではないだろうか。