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.JID  投稿日:2015/2/12

[Japan In-depth編集部]【ウェブメディアが新しい視点を与える】後半~気鋭の5編集長が語るメディアの未来~


【Japan In-depth創刊1周年記念シンポジウム~ウェブ・メディアの未来を語ろう~】全文起こし(後半)
※この記事は、2014年12月11日に開催された【Japan In-depth】創刊1周年記念シンポジウム~ウェブ・メディアの未来を語ろう~」の全文起こしです。前編・後編に分けて配信します。尚、この文字起こしは、株式会社U-NOTEが行い、Japan In-depth 編集部がパネリスト全員に確認しU-NOTE社の許諾を得て掲載しているものです。(U-NOTEの記事はこちら→「今のメディアには『ソリューション』がない」―メディア転換期の2014年、課題はどこにあるのか?)

「情報がタダで手に入る国」日本をどう変える?次世代メディアのトップがこれからの戦略を明かす

ネットメディアの第一人者がこれからのメディアについて語りつくしたイベント、「【Japan In-depth】創刊1周年記念シンポジウム~ウェブ・メディアの未来を語ろう~」。現在のメディアの問題点と、Webメディアを待ち受ける課題を2回に分けて紹介する。

後編のテーマは、ネットメディアはどうやってマネタイズをするのか。現在、ネットメディアのほとんどは大きな利益を出していない。情報はタダで手に入るのが当たり前だと思われている日本でお金を稼ぐには、一体どうすればいいのだろうか?

 前編はこちら:

「今のメディアには『ソリューション』がない」―転換期の2014年、メディアの課題はどこにあるのか

 

<スピーカー>

Japan In-depth 編集長 安倍宏行氏

株式会社講談社 現代2020企画部長 兼『現代ビジネス』編集長 瀬尾傑氏

ハフィントンポスト日本版 編集長 高橋浩祐氏

株式会社ユーザベース執行役員 NewsPicks編集長 佐々木紀彦氏

株式会社ジャパンタイムズ 執行役員編集担当 大門小百合氏

モデレーター>

フライシュマン・ヒラード・ジャパン株式会社 エグゼクティブ・コンサルタント 七尾藍佳氏

  

「情報をどうマネタイズするか」

七尾:ネットメディアの先駆者であるアメリカでは、市民がメディアを育てる流れが出てきていて、成功例もある。それに対して日本人の大半は、情報はタダで降って来るものだと思う傾向があるのではないでしょうか。いい情報、いいメディアがサポートされる時代は来るのでしょうか。

高橋:どうでしょうか。ハフィントンポストは、課金制をやるつもりはなく、今は2つの施策に注力しています。1つがネイティブ広告。例えば、トヨタが広告をハフィントンポストに出したいと言ったら、「全米でドライブしたら面白い場所5つ」という記事を作って、その上にスポンサーとタイトルを入れるんです。企業の宣伝はありません。ただ、その記事はすごく単価が高い。100万円を超えることもあります。

この例として分かりやすいのは、「世界ふしぎ発見」という日立のテレビ番組。番組の中身には日立は出てきません。ただし、スポンサーとして日立が出ているから、日立のブランドイメージの向上になる。

もう1つがモバイル動画。これからはモバイルビデオの時代です。ハフィントンポストのドイツ版もイギリス版もどんどんモバイル動画で広告をとるようになっています。

瀬尾:マネタイズの面から言えば、スモールメディアは生き残りやすいと思います。デジタルをうまく使えば総コストは下がるので、流通コストが下がるだけで生き残れる。

また、プラットフォーム的なメディアにも成功するところが出てくると思います。難しいのは新聞や週刊誌のような、100人近くが関わっているところです。新聞社にとって1000人を養う仕組みを作るというのは、すごく難しいと思うんですよね。

 

「大企業がYouTuberに依頼!?」

大門:最近、YouTuberが広告を作り始めているという話を聞きました。もちろん、まだ金額としては少ないかもしれません。なぜYouTuberが良いかと言うと、仲介者がいなくても大丈夫だから。従来型のテレビ広告は大抵は広告代理店が間に入りますが、YouTuberならその必要がないので、10分の1のコストで宣伝効果が上がるんです。

それから、プラットフォームの変化は新聞社にとって脅威ですが、ひょっとしたらうまくいくメディアもあるんじゃないかと思っています。最近、ニューヨークタイムズとドイツの出版社に出資を受けているオランダのベンチャーメディアがあります。

これはSmartNewsのようなメディアで、オランダのすべての雑誌と新聞の記事を1本20セントぐらいで売っているんです。買った記事は、気に入らなかったら返品もできるそうです。「メディアは大丈夫なの?」とも思うんですが、そんなメディアが出始めています。

高橋:お金は返ってくるんですか?

大門:理由を書けば、返すと言っています。

大門:そうなんです。結構怖い気もします。ただ、記事が媒体ではなく、記事単位で評価される時代がやってきたとも言えます。それがマネタイズになるのかは分かりませんけれど。

 

「テレビはまだまだ生き残る」

佐々木:私は、テレビが一番息が長いと思います。

安倍:テレビは、総務省に守られているからね。新規産業が生まれません。新しいキー局なんてできないですよね。厳しいのは紙媒体のメディア。雑誌から始まって、新聞がその次。そのわりには、新聞業界の人はまだあまり危機感がないように思います。

よく「テレビなんて、もう見ない」と言われますが、データを調べてみるとここ10年はほとんど変わっていません。みなさんもTwitterで、テレビのことばかり呟いていますよね。

佐々木:日本の会社って、本当に潰れないですよね。

安倍:新聞社と出版社とテレビ局は、それなりに資産があるのでなかなか潰れません。どんどん潰れてくれると、人材の流用が進んでいい方向にいくと思うんですけどね(笑)。新聞記者やテレビの記者が、あの給料をなげうって辞めることはまずあり得ないと思います。

「飼い殺しになるよりいい」と思って僕は辞めましたが、多くの人は辞めないでしょうね。給料が3分の1ぐらいになれば、少しは変わるかもしれませんけど。

我々が頑張っていけば、「ネットメディアも面白いじゃないか」と思う人が増えて、人材の流動化が起きるかもしれません。けれど、今のところはないですね。

高橋:この前、東洋経済が主催したイベントで山田編集長が面白い話をしていました。朝日新聞も明治初頭に創設されたばかりの頃は、噂話やゴシップといったイエロージャーナリズムばかり載せていたそうです。それが徐々に尊敬されたいと思い、政治や経済を扱い始めた。そうすると夏目漱石のような優秀な人材も入ってくる。そんな風にして上を食っちゃったそうです。

実際に、アメリカのハフィントンポストは徐々にローブローからハイブローにシフトしています。ローブローというのは、猫やスライドショーといった軽く低俗的な記事。ハイブローというのは、政治や経済といった高尚な記事。

日本でもこの流れは起きています。基盤がしっかりしていれば、ハイブローな記事も作れるのではないでしょうか。

佐々木:その通りだと思います。しかし、問題はスキルがどのぐらいのシフトで移行するか。そういう意味だとやはり、ビジネスモデルが重要になってきますね。先ほどおっしゃった動画とネイティブ広告は有効だと思いますが、課金に成功しない限り、利益率が上がってこないと思います。

なので、最初は赤字が出ても、ちゃんと投資をするフェイズがどうしても必要だと思うんです。最初から黒字化を目指して細々とやっていても、一気に上がることはないので、ベンチャーキャピタルから多額のお金を一気に調達するのが有効でしょう。

 

「メディアを育てるのは国民全員」

七尾:テレビの視聴時間は変わらないとしても、お金を払ってでもその情報をゲットしたくてアンテナを張っている人や、教育レベルの高い人をターゲットにすればマネタイズの道は拓けるのでしょうか。

安倍:佐々木さんと同じで、私も課金が重要だと思いますね。日本は、ほとんどの人が情報はタダで入手できると思っている。その原因はやはり、主にテレビなんですよ。地上波でもBSでも、クオリティの高いものがタダで見れます。実際は、商品を買ったお金の一部が広告費に流れているんですが。

アメリカは日本の地上波のキー局がなくて、各地域毎にローカル放送です。それをケーブルなどでお金を払ってみているわけです。

一方、日本は国策でどんな山奥にいても電波が届くようにしたので、情報はタダであるという考えが強い。

とはいっても、我々が差別化する情報をどんどん出していけば、月に100円ぐらいなら払ってもいいと思う人が出てくるはず。そうすればずいぶん変わると思いますよ。現代ビジネスも、将来的には課金制度を設けるんですか?

瀬尾:準備中です。

安倍:僕は、メディアは一般の読者や視聴者といった国民が育てていくものだと思うんですよね。メディアのことをぼろくそに言う人はたくさんいますが、それは天につばを吐くのと同じ。

だから、我々みたいなメディアがどう育っていくかは、一般大衆の情報を知ろうとする欲求に比例すると思います。

 

「メディアの専門化がユーザー獲得のカギ?」

七尾:それでは、質問がある方は挙手をお願いします。

質問者:マネタイズが難しいのは、ターゲットが一般大衆全体だからだと思います。例えば金融なら、金融の情報に対してお金を払う人がいるから「ブルームバーグ」という会社が成り立っている。そのような専門家向けのメディアを目指すという考えはないのでしょうか?

佐々木:そうですね。そういう意味では、我々は「SPEEDA」という企業情報プラットフォームを運営しています。コンサルや銀行、商社など500社以上から登録頂いており、これで得たお金を「NewsPicks」に投資しているんです。

「NewsPicks」は月額1500円での有料課金を目指していますが、カギになるのは専門性だと思います。そしてもうひとつがストーリー性。NHKの朝ドラのように、毎日読む習慣を作って、次を読みたいと思わせる記事が良いと思います。そういったものを増やせば有料会員を増やしていけるという手ごたえはありますね。

 

「メルマガはなかなか廃れない」

瀬尾:専門性について言えば、「現代ビジネス」では佐藤優さんなどの個人メルマガを出していますが、結構売れ行きがいい。ターゲットを絞って、流通コストを低くしたものにはすごく可能性があると思っています。

ネットメディアにはすごく期待していますが、一方で課題もあると思っています。簡単に言うと、現在は大衆を狙う収益構造になっているということです。僕らみたいな広告モデルで言えば、PVが一番収益につながります。

例えば、「現代ビジネス」は政治と政局を結び付けたメディアを作りたいと思っていますが、うちで過去最高のPVを記録した記事は、日テレの女子アナに内定をもらった女性が銀座でバイトをして内定を切られたという話です。

七尾:私も見ました。

瀬尾:この件は色々と社会的な問題ではありますが、これが過去最高PVでいいのかとも思います。とは言っても、やっぱりPVが高いのは嬉しい。

PVを追求していくと、結局ネットメディアも週刊誌の部数至上主義やテレビの視聴率至上主義と変わらなくなるんです。せっかくネットという新しいツールを持ちながら、やっていることがレガシーメディアと変わらない。もしかしたら、もっとひどくなるかもしれません。噂や悪口で数字を稼ぐビジネスモデルになったら、ネットメディアをやる意味がないですよね。

僕は、これからのアドテクノロジーの発達によって読者の質がもっと評価されるようになることを期待しています。読者のことを知るために今はアンケートなどもありますが、アドテクノロジーが発達すればその精度はもっと高くなる。そうすれば、PVやインプレッションのようなざっくりした数字よりも正確な読者層が分かる。それによって初めてマスメディアが数字の呪縛から切り離されるのかもしれない。

高橋:ごもっともだと思います。ハフィントンポストはマスが対象なので、専門性を構築するのが難しい。そこで、専門性ではなく媒体のブランドを大事にしています。例えば、国際ニュースや環境、ジェンダー、マイノリティの問題など。そういったウリがあると、広告を載せてみたい人が現れてきます。

これまではPVを稼げばお金も稼げたんですが、今はPCからスマホへの移行によって簡単にお金が落ちなくなった。スマホはマネタイズが難しいので、独自のブランド力が求められると思います。

大門:私の夫もメルマガを発行しています。彼は国際情勢という硬いテーマを扱っていますが、官庁や金融機関の人に人気があるそうです。1998年くらいに始めて、まだ生き残っている。

七尾:私もずっと読んでいます。時間なので、これからまとめに入っていただきたいと思います。最後に言っておきたいことがあれば、お願いします。

 

「デジタルネイティブのためのメディアを作る」

 瀬尾:安倍さんや佐々木さんにはぜひ成功してほしい。日本企業は、彼らのように企業を飛び出す人をうらやましがる反面、「失敗すればいいのに」と思っている人も多い。なので、そういう人達をびっくりさせるような大成功をしてほしいですね。

高橋:ハフィントンポストの今後の方針を挙げたいと思います。おそらく、どのメディアにも当てはまると思うのですが、1つ目がデジタルに強いこと。ハフィントンポストはデジタルオンリーで行くつもりです。そして2つ目がモバイル、3つ目がビジュアルに強いこと。画像や映像、インフォグラフィックに強いメディアがこれからは栄えます。

そして4番目が、若者に強いこと。今は、小学一年生ぐらいの女の子がスマホでお互いのダンスを撮りあう時代です。そうした人にも対応できるメディアを目指していきたい。

七尾:高橋さん、ありがとうございます。

佐々木:我々は、「3年後に100名体制の会社を作る」と公言しています。ゆくゆくは世界一の経済メディアを作りたい。ビジョンとテクノロジーと若さだけが我々の強みです。そして、これから1年がスマホメディアの勝負を決める期間だと見ています。

 

「レガシーメディアと違うことをすれば価値は出てくる」

七尾:では、大門さん。

大門:最大の課題は、ジャーナリストをどういうふうに育てるかだと思います。よく、「ジャーナリストってどうやってなればいいんですか?」と学生に聞かれますが、一昔前の私なら、「うーん、大きな新聞社か出版社に入るしかないかな」と答えていました。ですが、最近はいろんなところに書ける場所が出来て、状況が変わってきている。

それに、特に新聞社や大手企業に勤める女性記者は、自分たちの意見が通りづらいとも言われています。大きな組織で提案しても、「記事にならないよ」と突き返される。

ところが現代は、今日の登壇者の方たちのようなメディアの登場のおかげで、かなり多様な意見が目に入るようになった。私も、次世代のジャーナリストを育てていきたいと思います。

七尾:ありがとうございます。

安倍:ありがとうございました。大きな課題はいくつもありますが、今後は様々な志のある企業や個人がメディアを支える時代が来ると期待しています。

私のところも、大手メディアが取り上げないものをどんどん取り上げたり、大手メディアが呼ばない人に積極的に書いてもらったりしています。そうしていけば、レガシーメディアとは一線を画すものができ、そこに課金という形が出てくると思っています。

僕は、これからのキーワードは「企業」だと思いますね。企業がそういうメディアを育てる中で投資をすることも出てくるはずなので、それに見合ったコンテンツを提供するのが新興メディアの責任ですね。

(了)


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