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IT/メディア  投稿日:2015/5/20

[芳賀由明]【スマホ需要減に追い打ち?】~実効速度表示義務化で~


芳賀由明(産経新聞社経済本部 編集委員)

執筆記事プロフィール


スマートフォンなどモバイルデータ通信の通信速度が年内にも、実際の利用速度に近い数値で表示される見通しとなった。実際のデータ通信速度とかけ離れた高速通信をイメージさせるような誇大表示にようやくメスが入ることになった。
スマホの速度表示は、広告やカタログなどでは「受信時最大毎秒150メガビット」などと表示されるのが一般的。携帯電話事業者は「ベストエフォート」と呼んでいるが、つまり、「150メガビット」と表示されていても、最大限の条件で利用した場合には150メガビットも可能だが、実際にはそんな速度は不可能という意味で、計測すれば10メガ~20メガビットというのもざら。

150メガビットとは、1秒間に1億5000万ビットのデータが送信できる速度で、仮に日本語の文字なら937万字以上、新聞で約600ページ分の情報をわずか1秒で送信できる速度だ。しかし、現実には100ページにも満たないケースが多い。

というのも、周波数帯という限られた容量のネットワークにデータを乗せて運ぶ無線通信は、その電波容量が毎秒100メガビットだとすると、1人ならフルに100メガビットを使えるが、100人ならば1人当たり1メガビットに減速することになる。通信回線を使ってデータを送受信する光回線サービスと違い、利用者数や電波状況で速度は大きく変動する。

携帯電話事業者にしてみれば、実際の速度は使ってみないと分からない、という理屈で、だからこそ「実際の速度とは異なります」などと小さく注意書きもある。しかし、だからといって、現実的とはいえない速度が一人歩きするのは利用者に大きな誤解を与えかねず「誇大表示」のそしりは免れない。

国民生活センターや全国の消費生活センターによせられる通信サービスの苦情や相談では、「広告などに表示されている通信速度と実際の速度が余りに違う」といった内容が増えているという。そこで総務省は、昨年から「インターネットのサービス品質計測等の在り方に関する研究会」(座長・相田仁=東京大学教授)が検討を進め、5月にまとめた報告書案で、全国各地で実際に計測したデータによる「実効速度」の表示を通信事業者に義務づける方針を示した。

研究会では「事業者が『ベストエフォート型サービス』とうたっているとはいえ、実態と大きく乖離しているケースもある」と問題視。利用者に誤解を与えない情報に基づいて契約する環境を整えるために、計測方法や表示基準などについても具体策を固めた。

報告書案は、全国で計測した実効速度データに基づいて、「受信最大150メガビット(ベストエフォート)。受信実効速度は14.1~37.6メガビットです」などの表示を広告などに掲載するよう事業者に求めている。計測の具体的な方法は、人口100万人以上、50万~100万人、50万人未満のそれぞれの区分から各3都市と、東京23区の計10都市の合計1500地点で実施する。

米国の連邦通信員会(FCC)が公開する計測ソフトをベースに作成した計測ツールを採用し、送信(上り)/受信(下り)の実効速度や位置・時間情報、LTEなどの通信規格、端末情報、信号強度、遅延時間などを計測する。広告などに使用する「実効速度」は、計測結果を集計して、全データのうち中央の値に近い50%の範囲を示すことと規定している。

これによって、「国内最高速」といった広告表示や、通信事業者トップが民間企業の速度調査を根拠に「当社が一番速いことが実証されている」といった手前みそなアピール合戦は影を潜めて、利用者が実効速度を比較しやすくなりそうだ。

しかし、携帯電話事業者にとっては大きな問題が懸念される。これまで、安くて手軽に光回線サービス並みの通信速度を実現できる印象を利用者に植え付けてきたが、実効速度が主体になると、モバイル通信の速度が光回線サービスに及ばないことが明白になるからだ。

携帯電話事業者の幹部は「実効速度が義務化されれば、固定通信との格差が目立つ可能性もある」とその〝効果〟を懸念。国内スマホ市場は一時期の右肩上がりの勢いは影を潜め、2年連続で出荷台数が減少するなど厳しい状況となっている。携帯電話業界では「実効速度の義務化がモバイル市場全体の逆風になりかねない」と戦々恐々だ。

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