無料会員募集中
IT/メディア  投稿日:2015/6/22

[芳賀由明]【ソフトバンクロボット事業、収益化できるのか?】~製造コスト削減と用途開拓が課題~


 

芳賀由明(産経新聞社経済本部 編集委員)

執筆記事プロフィール

ソフトバンクが6月20日、「感情を備えた」世界初のヒト型ロボット「ペッパー」の一般向け販売を開始し、1分間で6月分の1000台が完売した。7月以降は月産数百台のペースを順次引き上げ、早急に月産1000台以上の生産能力を確保するのが当面の目標のようだ。しかし、「販売価格は製造コストより低い」(孫正義社長)状況は当面、続く見通しで、採算ラインにいつ乗せられるかは不透明な情勢だ。孫正義社長のいう「世界初の心を持ったロボット」を収益事業に育てるのは容易ではなさそうだ。

「わずか1分で完売」のニュースはペッパー人気を象徴する出来事ではあるが、「企業などから1000台以上の引き合い」(孫正義社長)や、「お年寄りから『すぐに買いたい。いつ買えるのか』という問い合わせを数多くいただいている」(幹部)といった前評判から考えると、驚くには当たらないかもしれない。

確かに、企業や店舗などで接客や受付には有効だし、独り住まいの高齢者にとってはいい話し相手になるかもしれないが、売り文句である人工知能やクラウド環境から得る知識によってどこまで賢くなるのか、不透明ではある。孫社長は会見で「1年前の発表時より頭の回転が4倍速くなった」とはいえ、教育分野や知的作業でその「実力」を発揮できるまでは時間がかかりそうだ。

ソフトバンクはペッパーの本格販売に合せて、100%子会社の「ソフトバンクロボティクスホールディングス(SBRH)」を増資して事業体制を強化する。中国ネット通販最再大手のアリババグループと委託製造世界最大手の台湾・鴻海科技集団(フォックスコン)がそれぞれ145億円出資する。出資比率はソフトバンクが60%、アリババとフォックスコンがそれぞれ20%となる。アリババグループのネット通販チャネルやフォックスコンの量産技術をフル活用して、来年から海外市場でも売り出す方針だ。

ペッパーに新たに搭載した機能「感情」は、外部から受ける言葉や環境の変化などで感情が変化する仕組み。人間が五感から受ける外部刺激によってホルモンを分泌して感情が変化するメカニズムをモデル化したという。

今秋には業種や業務アプリを搭載した企業向けペッパーも投入する計画で、ヒト型ロボットのシリーズ化をもくろむ。さらに、子会社を通じて、7月からペッパーの「人材派遣」事業にも乗り出す。時給1500円(技術者派遣費用も同1500円)でティッシュ配付や受付などの定型業務向けに派遣するが、すでに問い合わせが殺到しているという。

本体価格19万8000円(別途手数料9800円が必要)だけでも購入できるが、使い勝手を考えると、アプリを自由に使える基本プラン(3年契約で月額1万4800円)と、修理などに必要な保険パック(同9800円)の契約が必要。3年間で実質100万円強となり、個人では相当に裕福な家庭でなければ迎え入れられない。

これでも「製造コスト以下の販売価格」(孫社長)に設定しており、これ以上の価格引き下げは否定。孫社長は「30年後にはソフトバンクの中核事業になる」と長期的な取り組みを覚悟しているようだが、それまで事業を継続するには、量産効果による製造コスト削減と用途の開拓が最大の課題となりそうだ。

ヒト型ロボットは、米グーグルやフェイスブックなど内外の有力企業が研究開発に取り組み、事業化で激しい競争となるのは必至。ペッパー関連事業の資金は当面、国内携帯電話事業の収益から捻出されることになる。早期に採算ラインに乗せられなければ、収益基盤の携帯電話事業にも影響が及びかねない。

製造コスト削減を急ぎたい孫社長は自ら製造にも乗り出したい考えのようで、フォックスコンと交渉中とも伝えられる。とかくカネ食い虫のヒト型ロボット事業。短期間で興味が変化するといわれる孫社長が、どこまで我慢できるのか、見物ではある。

 

タグ芳賀由明

copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."