[古森義久]【中国のチベット人弾圧、相次ぐ抗議焼身自殺】~日本の慰安婦を非難する資格あるのか~
古森義久(ジャーナリスト/国際教養大学 客員教授)
「古森義久の内外透視」
「中国青海省のチベット自治州の州都広場でこの7月9日、27歳のチベット人僧侶が焼身自殺をしました。中国政府の弾圧への抗議デモの最中でした。僧侶の遺書には『中国政府がいま断行するチベット民族の宗教、伝統、文化の破壊政策に死をもって抗議する』と書かれていました。その焼身の模様は詳しく撮影されました。チベット人のこの種の抗議焼身自殺は2009年以来、すでに140人に達しました」
こんな言葉がアメリカ連邦議会の一室に響きわたった。7月23日、アメリカの立法府と行政府の合同の「中国に関する議会・政府委員会」が開いた公聴会だった。「習近平の中国での弾圧と支配」と題された公聴会である。この委員会はマルコ・ルビオ上院議員とクリス・スミス下院議員が共同議長を務める。いずれも共和党の有力議員で、ルビオ議員は2016年の大統領選にもすでに名乗りをあげた。
この公聴会は主に信仰の弾圧に焦点がおかれ、その弾圧対象となっているチベットの仏教徒、新疆ウイグル地区のイスラム教徒、中国各地のキリスト教徒、気功集団の法輪功信者の4集団の各代表が証人となった。
中国の共産党政権が習近平国家主席の下で歴代政権よりも過酷で組織的な弾圧を進めていることはアメリカの官民から指摘されている。つい最近の中国当局による合計200人もの人権派弁護士の拘束はそのほんの一例だといえる。弾圧の対象は共産党の独裁への批判勢力に始まり、共産党が抑圧する個人の言論や集会の自由、宗教や信仰の自由を唱える人たちとなる。
アメリカの国政レベルでは中国への協調を優先させてきたオバマ政権は中国当局の人権弾圧を正面から提起することはこれまで少なかったが、議会や民間では中国非難が広がっている。この「中国に関する議会・政府委員会」は立法府と行政府が共同で中国の人権状況などを調査して、結果を発表する超党派の機関なのだ。
この公聴会でチベットでの弾圧を報告した証人は海外在住チベット組織の代表のロサン・ギャッソ氏だった。同氏は7月13日に四川省の刑務所で獄死したチベット仏教の高僧テンジン・デレク・リンポチェ師についても証言した。2002年に国家転覆罪などで終身刑を宣告された同師はまだ65歳だったが、同13日に原因不明のまま死んだというのだ。
こうした証言が終わると、ルビオ、スミス両議員が中国政府の弾圧政策を厳しく非難し、9月に予定された習近平主席の訪米ではオバマ大統領が中国の人権問題を主要議題とすることを求めた。とくにスミス議員は「チベットでは平和的な僧侶たちが政治犯として拘束され、その数はもう273人にも達した。オバマ政権は習主席をアメリカに招くこと自体を再検討すべきだ」と訴えた。
中国政府のチベット民族などの弾圧はいま目前で起きている人権や人道の規範に違反する無法な行動である。その中国が70年も前の日本側の慰安婦問題などを、事実を大きく曲げてまで取り上げ、同じ人権や人道の規範を理由に現在の日本を糾弾する。中国側にそんな道義的な資格はないことは明白だといえよう。