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.国際  投稿日:2015/8/27

[林信吾]【英、定年後切り詰めれば年1回海外旅行】~高度福祉国家の真実 6~


 

林信吾(作家・ジャーナリスト)

「林信吾の西方見聞録」

執筆記事プロフィールblog

英国の大学で教鞭を執っている私の知人が、間もなく年金生活に入る。年金はどの程度もらえるものなのか、教えてもらった。

英国の大学は、ほとんど全て「王立」で、日本の国公立・私立という分類には当てはまらないのだが、ここではその話は度外視して、企業体と見なす。

事実、年金の計算方法などは民間企業と変わらず、

退職時の年俸×(勤続年数÷80)

という数式で算出する。ただ、民間企業の場合、詳細な条件は労使間の話し合いで最終的に決まるケースがほとんどであるようだ。

その知人の場合、実は冷戦時代にポーランドから亡命してきたという事情があって、教職に就いたのが比較的遅く、その上、交換教授として京都大学に勤務した時期があるのだが、なぜか、その分が「空白期間」とされて勤務年数から差し引かれてしまうという。つまり、モデルケースとしては、ちょっと適当でないかも知れない。

一般的に、英国の大学で教職に就くには博士号が必要なので、28歳でその資格を満たし、研究生活を経て30歳で教員になったとしよう。定年は65歳なので、勤続年数は35年ということになる。これも厳密に言えばケース・バイ・ケースなのだが、大学教員の年俸はおおむね5万ポンドで頭打ちになるようだ。上記の数式を当てはめると、

50,000×(35÷80)=21,875

となり、年額21,875ポンドが支給額ということになる。

英ポンドのレートは、目下187円強だが(8月26日現在)、私はロンドンで10年間暮らした経験から、物価水準などを加味して、1ポンド=200円で計算するのが適当だと考えている。すなわち、5万ポンドの年俸は、ちょうど年収1,000万ほどだ。同様に、年金支給額も4,375,000円くらいという計算になる。

ただしこれは、手取りではない。年金に対しても10%の所得税が課せられる上、カウンシル・タックス(住民税。実態は日本の固定資産税に近く、持ち家に住む人の税負担が重い)は、現役時代と同額を納めなければならない。18%前後の税負担は覚悟しなければならない。一方では、大学から支給される年金に加えて、日本の国民年金に相当する老齢年金が支給される。

ざっくり言って、定年退職時に年俸1,000万円あった人の場合、定年後の手取り収入は400万円を下回らない、と期待できるーー制度がこのまま変わらなければ。と言うのは、英国でも、年金の運用に失敗して原資を細らせてしまった話はよく聞くし、日本ほどではないにせよ高齢化は深刻なので、様々な「改革」が模索されているからだ。

前述の老齢年金も例外ではなく、現行は男性65歳、女性60歳の支給開始年齢が、男女とも65歳になる上、前に紹介したナショナル・インシュアランスを30年以上納付していることが給付の条件となるようだ(2020年から新制度に移行の予定)。

実際に、40代のビジネスマンの口からは、こう聞かされた。「僕が年金をいくかもらえるのかって?神のみぞ知る、ですよ」とどのつまり「システムとしての年金」を考えた場合には、日本と大差ないのだな、と考える人もいるかも知れない。が、決してそうではないのだ。なぜなら英国は医療費が無料なので、入院や手術といった「不慮の出費」を考えなくて済む。公共交通機関も60歳以上は原則無料である。

私の知人の場合でさえ、大学から支給される年金は、17,500ポンド程度に留まるのだが、住宅ローンを払い終え、子供が独立する前提で考えれば、「つつましく暮らせば、年に一度の海外旅行くらいは、まあ、なんとか」という老後の人生設計が描ける、という。

私など、そもそも年金がもらえるかどうかさえ分からないし、たとえ受け取れても、国民年金のみで食べて行くことなど、到底できない。病気になったら即、生活が崩壊する。本当に、わが国の福祉はどうなっているのか。

(この記事は、
【最後は国が本当になんとかしてくれる、のか?】~福祉先進国の真実 1~
【英、無償の医療は当然の権利】~福祉先進国の真実 2~
【実は高福祉・高負担な英国】~高度福祉国家の真実 3~
【英、医療の進歩が財政のネックに】~高度福祉国家の真実 4~      
【英、無償の医療は「クラウンジュエル=家宝」】~高度福祉国家の真実 5〜         
の続きです。あわせてお読みください)

 

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