[古森義久]【中国新鋭兵器より旧日本軍手りゅう弾報じるNHK】~弾道ミサイルの脅威に触れず~
古森義久(ジャーナリスト/国際教養大学 客員教授)
「古森義久の内外透視」
NHKにとっての日本の安全保障とはなんなのだろう。目前の中国軍の日本をも射程におさめた各種ミサイルや爆撃機などよりも70年以上も前の旧日本軍の手りゅう弾が気になる、という感じなのだ。9月3日、北京では予定どおり「抗日戦争勝利記念」の軍事パレードが催された。アメリカ本土にまで届きそうな長距離弾道ミサイル、洋上を進んでくる米海軍の空母を専門に狙うらしい中距離弾道ミサイル、グアム島や日本本土をすべて射程におさめた弾道、巡航両中距離ミサイル、日本への攻撃が可能な爆撃機や戦闘機などなど、日本やアメリカへの脅威となる新鋭兵器のオンパレードだった。
だがこの日の夜のNHK総合テレビは「所さん!大変ですよ」という午後11時ごろの30分ほどの番組で「日本軍の陶製手りゅう弾」について延々と報じていた。日本軍が沖縄戦にいたる敗戦の連続に追い詰められ、陶器までを使って、手りゅう弾を大量に製造した、という話なのだ。しかもその戦時の日本軍のそんな努力をいかにも非合理で不毛な作業として批判的に語り続けるのだ。そんな70年以上も前の日本自身が作った手りゅう弾よりも、いま現在、日本を射程のおさめ、照準さえ合わせている中国人民解放軍の各種兵器についてなぜ詳しく報じないのか。
つい数時間前まで他のテレビ局は中国のその日の大軍事パレードとそこで誇示された兵器類について詳しく報じていたので、このNHKの旧日本軍の手りゅう弾報道はいかにも奇異に映った。日本の安全保障という意識がないようなのだ。
事実、そのNHKの手りゅう弾報告に続く次のニュース番組では中国の軍事パレードについての報道や解説があったが、もっぱらその政治的な意図や戦略的な狙いばかりが語られるだけだった。日本の安全保障にとっての当然の脅威となる新鋭兵器類への言及はまったくなかったのである。
NHKにとっては70年前の旧日本軍の手りゅう弾の方がいま現在の中国人民解放軍の近代兵器よりも重要だとでもいうのだろうか。