サンダース候補に熱狂する若者~米大統領選「ヒラリー疲れ」も~
古森義久(ジャーナリスト・国際教養大学 客員教授)
「古森義久の内外透視」
アメリカの大統領選挙でふしぎな現象の一つは民主党側で知名度の高い前国務長官のヒラリー・クリントン候補(68)が全米的には無名に近かった上院議員のバーニー・サンダース候補(74)に苦戦していることだろう。だがさらにふしぎなのは年長のサンダース氏が若者たちの間でクリントン氏を大きく引き離す支持を得ていることである。一体なぜなのか。
2月1日のアイオワ州党員大会の民主党側投票ではクリントン氏はサンダース氏を「カミソリの刃の薄さ」と評された僅差で破ったが、事実上は引き分けだった。だが出口調査では30歳以下の有権者のなんと84%がサンダース氏に投票したことが判明した。同じく30歳以下の投票者を対象とした「クリントン、サンダース両候補のうちどちらが自分の価値観を共有していると思うか」という質問には93%がサンダース氏の名をあげたという結果が出た。
サンダース氏がなぜ若者に人気あるのかについてクリントン氏の夫のビル・クリントン元大統領は皮肉をこめながら「彼のメッセージは、『私が当選すれば、大銀行を解体し、金持ちへの税金を増して、あなた方の大学の授業料をただにして、医療費負担を大幅に削ります』という単純な内容で、若者たちを感情的に満足させるのだ」と述べた。
確かにサンダース氏は社会主義者を自称するように、アメリカの資本主義の市場経済を正面から批判し、富裕層に高い税金を貸して、貧困層への福祉に大幅に回すことを主張する。民主党の内部でも最も左の超リベラル派とされるわけだ。こうした過激な社会主義的な政策がいまのアメリカでうまく機能することや、一般アメリカ国民の支持を得ることへの疑問は多々、提起される。
だがサンダース氏が74歳という年齢にもかかわらず、若々しい情熱をこめてその主張に沿って政治活動を長年、続けてきたことは知られている。そして実際に大企業やロビー団体という既成の体制派的組織には一貫して背を向けてきた政治姿勢を「クール(かっこいい)」とみる若者たちが多いことがアメリカの各種メディアで報じられている。
同時にワシントン・ポストが党員集会のあったアイオワ州や2月8日に予備選が催されるニューハンプシャー州から報じたところによると、若者たちの間にはヒラリー・クリントン氏が大企業やロビー団体との強いきずなを保ち、しかもあまりに長い年月、政治の場で活動してきたことへの批判も多い。そのため「ヒラリー疲れ」という現象が40歳以下の有権者の間で広範に起きているのだともいう。そんな反クリントン氏の風潮がとくに若い層に強く、その傾向がサンダース人気を高める要因にもなっているようだ。
トップ画像:©バーニー・サンダース候補公式HPより
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この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授
産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。