米大統領選:アイオワで波乱の幕開け~米国のリーダーどう決まる? その2~
大原ケイ(米国在住リテラリー・エージェント)
「アメリカ本音通信」
全米に先駆けて大統領候補を決める予備選挙が行われたアイオワ州で、大方の予想に反し、暴言不動産王、ドナルド・トランプが痛い黒星を喫したと報道されているようだ。だが、前回説明した通り、アイオワではとにかく「良き夫、良き父」や「徳の高い人物」であることを全面に押し出し、地道に地元の支持者を取り囲まないと勝てないので、実は当初、トランプにとってアイオワは眼中になかったのだ。だが、直前になって支持率が上がり、「勝てるかもしれない」と思ったトランプ陣営が取ってつけたようにアイオワにやってきて選挙活動をした、という経緯がある。
アイオワ党員集会直前のディベートに出席拒否したのも、トップランナーのまま出て行って他の候補者にバッシングの標的とされるより、自分がいなければ2番手で後を追うクルーズ・テキサス州上院議員がターゲットになるのも織り込み済みだった。トランプは次のニューハンプシャー戦で取り返すつもりでいるので、表面上は平静を装っているが、彼は何よりも負けず嫌い。3月1日のスーパーチューズデーで負けがこんだらあっさり勝負を降りる道を模索することになるはずだ。
トランプとしては、これ以上ディベートをやっても、政治的知見がないことが露呈するだけなので、候補者がさらに絞られてくれば、また欠席するかもしれない。アイオワのような党員集会方式だと、決起大会に集まるトランプ支持者の盛り上がりが、どのぐらい実際の票に繋がるのか、蓋を開けてみないとわからない部分があったのも確かだ。トランプが自分たちの怒りや鬱憤を差別的な暴言という形で昇華させてくれると感じても、国の行き先を考えて一票を投じることは別なのかもしれない。
一方、これ以上の接戦はないぐらい互角だったのが民主党のレースだ。次のニューハンプシャー戦の投票予測ではバーニー・サンダースが有利とされているが、クリントン陣営にとっては、最初にいくつか負けたり、ギリギリの接戦が続いた方が、8年前から彼女を応援し、次は女性大統領が誕生するのを当然のように思っていた支持者を奮い立たせるのには有効かもしれない。
出馬した時はまさかヒラリーに勝てるかもしれないとは思っていなかった節のあるサンダースがこの後、どれだけ本気になって欲を出し、政策を微調整してくるかが注目されるところだ。理想を掲げるのはいいが、それだけでは米議会が動かないことはオバマ大統領の苦戦を見ても明らかだし、銃規制に関する立場が民主党のそれと相容れない、というマイナス点もある。
おりしも、リビアの大使館襲撃(ベンガジ事件)の際、国務長官として私用サーバから送ったメールのいくつかがCIAによって再度「機密」と認定されたことにより、クリントンを叩く材料が再燃したわけだが、共和党はまだまだお互いを叩くのに忙しく、夏頃までにはメールスキャンダルが収まっている可能性もある。
一方、サンダースは、第1回目のディベートで「もう、あなたのEメールのことを聞かされるのには辟易しているんだ!」と言った手前、今さらこの件について蒸し返すこともできまい。それをやったら、彼はネガティブキャンペーンをやらないと宣言した点を支持してきた若者層や潔癖なリベラル層が離れていってしまう。結局、民主党第3位の候補だったマーティン・オマーリー前メリーランド州知事はアイオワ州での結果を受けて選挙戦から撤退を表明した。
共和党はこれからトランプ、クルーズともう一人、若手保守派のマルコ・ルビオの三つ巴の戦いの裏で、トランプやクルーズは絶対に推したくないと考えている共和党主流派が、クルーズと同じ茶会系保守派のルビオに寝返るのか、それとも相変わらずジェブ・ブッシュやクリス・クリスティーに湯水のように寄付金を渡し続けるのかが注目される。
(この記事は【米大統領予備選挙開始】~米国のリーダーはどうやって決められるのか その1~ の続きです)
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この記事を書いた人
大原ケイ英語版権エージェント
日本の著書を欧米に売り込むべく孤軍奮闘する英語版権エージェント。ニューヨーク大学の学生だった時はタブロイド新聞の見出しを書くコピーライターを目指していた。