ジェブ・ブッシュ撤退 共和党三つ巴 米国のリーダーどう決まる? その5
大原ケイ(米国在住リテラリー・エージェント)
「アメリカ本音通信」
先週末2月20日の土曜日、ネバダ州で民主党が、サウスカロライナ州では共和党の予備選が行われた。これに先駆けたアイオワやニューハンプシャーは人口は少なめで、全米平均と比べると白人率が高かったり、宗教保守派が多いなど、かなり特異な土地柄であるため、今後の大統領選挙全体の行く末を占うには不適切だったが、ネバダやサウスカロライナではそうはいかない。両党の候補がほぼ出そろう来月初頭の「スーパー・チューズデー」を前に、どのような展開が予想されるか、だいぶ見えてきた。
まずはネバダ州の党員集会。ヒスパニック系有権者が多く、ラスベガスのカジノ産業が好調かどうかで州民の生活が左右される土地柄。きらびやかなカジノとその周辺に多く住むホームレス人口によって、全米のどこよりも貧困の差が顕著に可視化されたネバダでこそ、サンダーズが提唱する「格差をなくそう」というアピールは魅力的なものとして有権者の眼に映るだろうとも思われていた。
特に20〜30代の年齢層では、ヒラリー・クリントンの支持率を上回り、ネバダでも追い上げているとニュースでは伝えられていた。だが、予備選挙(プライマリー)と違い、党員集会(コーカス)では、実際に会場に出向いて説得されて支持する候補者を決める浮動票も多く、事前調査が役に立たないことが知られている。蓋を開けてみれば、早い時期から草の根運動でマイノリティーやカジノ従業者をとりこんでいたクリントンが逃げ切ったという印象だ。
この後に控えるサウスカロライナ州や、その後に続く南部の州ではまだまだクリントン支持の基盤が厚く、サンダースが彼に熱狂する若者層を取り込んだとしても過半数を取れそうな州は限られている。他にもまだ候補者がいるのなら、過半数を取れそうな州に集中して選挙運動を展開する方法も考えられるが、これからはクリントンとの一騎打ちが続くことを考えれば、サンダースが勝ち続けるシナリオは現実的ではない。
一方で、共和党の予備選挙も予想通りの結果となったといえる。ドナルド・トランプはこのところ暴言癖が暴走して、「橋ではなく壁を作るのはキリスト教徒的な考え方ではない」と遠回しに非難したローマ教皇まで批判したり、軍人家族が多く住むサウスカロライナでは皇族のように重んじられているブッシュ一族を貶め、イラク戦争に反対だったと発言するなど、相変わらず支持率に影響を与えそうな爆弾発言が続いたが、それも計算づくの「煽り」で、今後もどのような暴言を発したとしても支持率が下がったりはしないのだということに、ようやく共和党中道派も気づいた。
それがとうとうジェブ・ブッシュ退陣に繋がった。共和党の重鎮から支持され、潤沢な選挙資金をもってしても、ついに彼の支持率がヒト桁から抜け出すことはなかった。この先も改善する見込みはないことをようやく共和党が理解したのだ。今後これまでのブッシュ票は今回のサウスカロライナ予備選挙で2位につけたマルコ・ルビオに流れていくだろう。
若手のルビオには上院での実績もなく、発言も薄っぺらい。そのルビオに共和党のネオコンが味方する、という構図は親の七光りで就任したジョージ・ブッシュ43代大統領の後ろに、ディック・チェイニー前副大統領やドナルド・ラムズフェルド全国防長官が控えているという構図そのまま、というのは皮肉なことだ。
アイオワ州でトランプを負かし、ルビオと僅差で3位に甘んじたテッド・クルーズだが、もともと共和党内で嫌われ、トランプには「ひどい嘘つき」と罵られ、これからの予備選挙では、アイオワ州のように宗教保守派が多い南部でも苦戦するだろう。この期に及んでブッシュ以上に勝ち目のないベン・カーソンがまだ撤退しないのには、とりあえずレースに参加していればクルーズから票を奪うことができるから、という理由もあるのだろう。
カーソンもトランプのように、政治献金よりもセレブリティーとしての力で表舞台にい続けるること自体が選挙運動なので、自分のふところがあまり痛まないのだ。ジョン・ケイシックは穏健派のダークホースとしてもうしばらく健闘したとしても、どこかの州で過半数を奪う勢いにはならないだろう。
共和党はこのまましばらくトランプ、クルーズ、ルビオの三つ巴戦が続きそうだ。
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この記事を書いた人
大原ケイ英語版権エージェント
日本の著書を欧米に売り込むべく孤軍奮闘する英語版権エージェント。ニューヨーク大学の学生だった時はタブロイド新聞の見出しを書くコピーライターを目指していた。